柚木麻子『マジカルグランマ』(朝日新聞出版、2019)

この人の新作はいつも人気で公立図書館で予約してひたすら待機する。
思いがけないタイミングで貸出の順番が回ってくる。
書店で新刊を買って即読むのとは違う経験が
意外に悪くないと思えるようになった。
シニア生活の知恵かな?
柚木麻子『マジカルグランマ』(朝日新聞出版、2019)を読む。


マジカルグランマ

マジカルグランマ


主役の柏葉正子(かしわば まさこ)は現在74歳。
以前の芸名は「尾上(おがみ)まり」。
目立たぬ女優だったが、
巨匠の映画監督・浜田壮太郞(はまだ・そうたろう)と結婚。
この4年間は夫と一言も口を聞かなくなった。
敷地面積230坪、73坪の邸宅で顔を合わせず暮らしている。


夫から生活費をもらわず、
国民年金を払っていなかったため65歳になっても年金の支給はない。
自分で稼ぐことのできる月1万円から3万円で暮らしを切り盛りしている。


長年の友人であり、80代のいまも女優として活躍している
紀子(のりこ)ねえちゃんの紹介で、
シニア俳優専門の派遣事務所「ブーゲンビリア」に所属することになった。
60代の元ロマンポルノ女優・設楽(したら)さんが経営する事務所だ。


物語はそこから始まる。
世間の片隅で暮らす普通の人間たちが
たくましく、明るく、ときにずるく、しぶとく生き抜く様を
柚木はユーモア、ペーソスを交え綴っていく。


僕は話題になった『ナイルパーチの女子会』『BUTTER』よりも、
アッコちゃんシリーズの延長線上にあると思える本作の方がずっと好きだ。
なんと言っても読後感がいいのだ。


ランチのアッコちゃん (双葉文庫)

ランチのアッコちゃん (双葉文庫)

3時のアッコちゃん (双葉文庫)

3時のアッコちゃん (双葉文庫)

幹事のアッコちゃん (双葉文庫)

幹事のアッコちゃん (双葉文庫)

(人生を生き抜く力が頼もしいアッコちゃんシリーズ三部作)

副島隆彦『トランプ大統領とアメリカの真実』(日本文芸社、2016)

副島先生の本は読み慣れてくると面白くなる。
ちょっといかがわしそうで最初は警戒するのだが、
他の人が書かないことを書いている。
その予言が当たっているから傾聴に値するのだ。
副島隆彦トランプ大統領アメリカの真実』(日本文芸社、2016)を読む。


トランプ大統領とアメリカの真実

トランプ大統領とアメリカの真実


序文からして自信満々だ。
「はじめに—「次はトランプ」だ」を引用する。


  「次の米(べい)大統領は決まりだ」と、
  私はこの2016年5月22日に決めた。
  私の政治分析に基づくこの予測(予言)は、
  この本が出る7月の初めでもまだ誰も公言できないことだ。


  私の専門(プロパー)は、
  現在のアメリカ政治思想(ポリティカル・ソート)の諸流派の研究である。
 「トランプが当選する」と私は誰よりも早く決心して書いた。
  私が主宰するインターネット上のサイトである
  「副島隆彦の学問道場」に書いて載せた。
  それはなぜか?


  このあと7月18日の共和党の党大会で、
  ドナルド・トランプが党の候補者としての指名(ノミネーション)を獲得する。
  そして、そのあとの11月8日の本選挙までさらに3カ月ある。
  その間にトランプがどのように勝ち進むか。
  この本を読めば、「トランプ勝利に至り着くアメリカ政治の真実」が大きくわかる。
  (略)


  思い起こせば、今から8年前の2008年の米大統領選で、
 「次はオバマという黒人だ。ヒラリーは負ける」と一番乗りで予言した。
  私はその前年(2007年)にそのことを自分の本に書いた。


  これを国家情報官(インテリジェンス・オフィサー)
 (引用者注:正しくは元外務省主任分析官)である
  佐藤優(まさる)氏が評価してくれて、
 「副島さんが誰よりも早かったですね。
  次はオバマだ、と決め打ちしましたからね」
  と、褒(ほ)めてくれた。
                            (pp.1-2)


副島先生は無論、山勘でトランプ当選を当てた訳ではない。
2016年5月18日、トランプが娘イヴァンカの夫ジャレッド・クシュナーを同行させ、
ニューヨーク・アッパーイーストの
ヘンリー・キッシンジャー宅を訪問した意味を読み解いたのだ。


本書の構成は以下の通り。


  第1章 トランプ大統領の誕生
  第2章 トランプ旋風とアメリカ大統領選の行方
  第3章 ドナルド・トランプとは何者か
  第4章 アメリカのアイソレーショニストとポピュリストたち
  第5章 リバータリアニズムとアメリカ政治思想
  第6章 ヒラリーなら第3次世界大戦になる。
  おわりに
  トランプ 大統領選挙 日々の記録
  ドナルド・トランプの人生の軌跡


     担当:水波康(日本文芸社編集長)
        山根裕之(グラマラス・ヒッピーズ)


いざトランプが米大統領に当選したとたん、
すべて想定内だったような顔をしてとぼけている
政治家、評論家、作家はまったく当てにならない。
副島先生の著作に目を通しておく方が、
アメリカを中心とする近未来予測の読み解き確率が遙かに上がる。


世界覇権国アメリカを動かす政治家と知識人たち (講談社+α文庫)

世界覇権国アメリカを動かす政治家と知識人たち (講談社+α文庫)

属国・日本論

属国・日本論

決定版 属国 日本論

決定版 属国 日本論

(副島先生自身が主著とする二冊。『属国・日本論』は決定版が9月26日に出る)

祝受賞!おづまりこ『おひとりさまのあったか1ヶ月食費2万円生活』

愛読しているおづまりこさんのシリーズの一冊、
『おひとりさまのあったか1ヶ月食費2万円生活』
料理レシピ本大賞in Japan、第6回料理部門コミック賞を受賞しました。
おめでとうございます!



受賞記念の書籍広告コピーを引用します。


  すぐ真似できる
  おいしい節約レシピ
  てんこ盛り!


  月ごとの食費管理術や外食を安く楽しむコツ、
  冷凍テクニックで食材を無駄にしない方法など
  役立つ情報が満載!


  定価(本体1,100円+税)
  発行 株式会社KADOKAWA


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書店で見かけて興味を持ち、公立図書館で予約。
待機の方がいつも二桁三桁いることで
おづさんのコミックエッセイシリーズの人気を知りました。
いまやシリーズで20万部も売れているんですね。

老舗の古書店の棚が似合う本

クリッピングから
朝日新聞2019年9月11日朝刊
天性の自由人 核にはドイツ文学
池内紀さんを悼む
評論家・川本三郎


 「困ったことがあったら夜中でもいいから電話してください」。
  家内を亡くし一人暮らしをしている私に
  そう言って励ましてくれた池内紀さんが逝ってしまった。
  身を切られる思いがする。


  池内さんはもっとも尊敬する物書きであり、
  その飄々(ひょうひょう)とした穏やかな人柄にはいつも心がなごんだ。
  五十五歳のときに東大教授を辞め、
  その後、筆一本で文章を書き続けた池内さんは天性の自由人だった。
  (略)


  さらに最後の書となった『ヒトラーの時代』のなかでは、
  カフカの小説を全訳し、そのあと評伝を書いている時、
  「カフカが愛した姉や妹や恋人がアウシュヴィッツで死んだことを、
  かたときも忘れなかった」と書いている。
  ここにドイツ文学者としての痛み、そして誠実を見る思いがする。


  勤勉でストイックな方だった。
  朝の三時頃にはもう起きて仕事をする。
  以前、一緒に温泉に旅をしたとき、明け方に目を覚まし、
  トイレに立とうとすると、隣の部屋で池内さんが
  黙々と翻訳の仕事をしているのを見て、驚いたことがあった。


  大変な読書家だった。
  だからアンソロジストとしてもいい仕事をされた。
  井上ひさし鶴見俊輔と共に編集に関わった
  『ちくま日本文学全集』はそのひとつ。
  (略)


  昭和十五年生まれ。
  戦後民主主義のなかで育った。
  だから近年の日本のきな臭い状況を危惧されていた。
  ただ直接に政治的発言をする方ではなかった。
  大きな声は嫌った。
  (略)


  読売文学賞を受賞した『恩地孝四郎』のなかで美術家、
  恩地の本についてこう書いている。
 「図書館には似合わない。
  大学の研究室には場違いである。
  老舗の古書店の棚がいい」
  まさに池内紀さんの本がそうだった。
  大切な人が逝ってしまった。
  寂しい。
  (寄稿)


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(どなたがお撮りになったのか。池内さんの表情がいいですね)


川本さんの文章を読んで、
池内さんは友人といい関係を持っていたんだなぁ、と想像した。
「なにか困ったことがあったら夜中でもいいから電話してください」
奥さんを亡くして困っているに違いない友人にかける言葉として
これほど具体的で過不足ないものはないだろう。
「夜中でもいいから」と言われただけで、
窮地にいる友人の心はどれほど安らぐか。
お愛想で言える言葉ではない。


池内紀さん最後の著作)
恩地孝四郎―一つの伝記

恩地孝四郎―一つの伝記

戦争よりも本がいい

戦争よりも本がいい

wikipedia:池内紀

池上彰『知らないと恥をかく世界の大問題10』(角川新書、2019)

「逃げ恥」は知っていたけれど、「知ら恥」は知らなかった。
本書は「知ら恥」シリーズと呼ばれているのだそうです。
池上彰『知らないと恥をかく世界の大問題10ー転機を迎える世界と日本』
(角川新書、2019)を読む。



2009年から毎年1冊出版されていて(2010年を除く)、
シリーズ10冊目です。
池上さんが選び、解説する
この一年の「世界の大問題」総ざらいと言う訳ですね。
第10巻の構成を目次から引用します。


  プロローグ 「転機」を迎える世界と日本
  第1章 居座るトランプ「アメリカ・ファースト」主義
  第2章 揺らぐヨーロッパ、EUは夢だったのか
  第3章 サウジの焦り、したたかイラン、イスラム世界のいま
  第4章 習近平の1強政治
  第5章 AIとグローバル化の並みに翻弄される私たち
  第6章 憲政史上最長政権へ。安倍政権は日本をどこへ?
  エピローグ 民主主義とは何か
  おわりに
  参考文献案内・私の情報収集術〜私が得る1次情報は新聞


各章のタイトルを眺めるだけで、
この問題を池上さんはどんなふうに解説するんだろうか、
と耳を傾けたくなります。


池上さんは意見を述べる前に基本となる事実を丹念に調べ、
その上で間違いは間違いであるとどんな相手にもきちんと指摘します。
第5章にこんな箇所がありました。


  ■「LGBTには生産性がない」発言で炎上


  日本でも、この言葉がたいぶ浸透してきました。「LGBT」です。
  最近では、自由民主党杉田水脈(すぎた・みお)衆議院議員
  『新潮45』に寄稿した「LGBTには生産性がない」といった論考に
  批判が殺到しました。


  「LGBTカップルは生産性がない(子どもが産めない)から、
  その人たちに税金を投入するのはおかしい」という主張ですが、
  そもそも国も行政もLGBTの人のための支援などしていません。
  税金が投入されていないのです。
  そういう事実誤認があるのですが、
  そもそも人間に対して
  「生産性」という言葉を使うこと自体が間違いです。
                        (p.209)


あ、そうだな、と池上さんに指摘されて僕も気づきました。
LGBTの人のためにそもそも税金は投入されていなかったじゃないか。
せいぜい都内で渋谷区、世田谷区が
同性婚を承認する書類を発行するようになったくらいです。
かかる費用は知れています。


僕が池上さんの本を読んでいつも感心するのは
次のようなくだりです。


  LGBTとは、
  レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー
  頭文字を並べたものです。
  何をいまさら……と思われるかもしれませんが、一応解説しておきます。


  L(レズビアン、女性同性愛者)は、体と心の性別は女性で、
  性的指向も女性である人のことです。
  G(ゲイ、男性同性愛者)は、その男性版。
  体と心の性別は男性で、性的指向も男性である人のことです。


  B(バイセクシュアル、両性愛者)は、体と心の性別を問わず、
  性的指向が両性である人のことです。
  体と心は男性で、男性も女性も好きになる人もいれば、
  体は男性で心は女性で、男性も女性も好きになる人もいます。


  外見は男性ですが女性の心を持ち、
  男性を好きになると一見「ゲイ」に見えますが、
  この場合はT(トランスジェンダー、出生時に診断された性と
  自認する性の不一致)です。
  外見は女性で男性の心を持つ人も同じです。
                      (p.209-210)


僕は「トランスジェンダー」の理解があいまいでした。
外見は男性で女性の心を持ち、
性転換手術で男性から女性になった人(あるいはその逆)を
トランスジェンダー」と呼ぶのだと思っていました。
性転換手術をしたかどうかは「トランスジェンダー」の定義とは関係ない
というのが池上さんの理解なんですね。


そもそもLGBTの定義理解があいまいなまま、
公的機関の税金投入の事実を確認しないまま
杉田議員の発言に騒ぎ立つことは
肯定するにせよ否定するにせよ、
まったく意味のないことであることがよく分かります。


池上さんの解説はここで終わりません。
さらに先に進みます。


  自分の周りにはいないと思っているかもしれませんが、
  LGBT総合研究所が全国の20歳から59歳の個人10万人を対象に
  調査したところ、回答した9万人のうち約8%が
  LGBTなどの性的マイノリティであると回答しています。


  つまり日本には、13人に1人の割合で
  LGBTと呼ばれる人が存在するのです。
  これまでは隠していた人が多かったので、
  気付かれていなかったということでしょう。


そうか、自分や家族がLGBTじゃないからと言って、
この人たちが例外とは言えないんだな。
10万人を対象にした調査を元に僕たちに伝えてくれます。
さらにダメ押しが続くのが池上流解説の真骨頂です。


  世界では、国民投票により同性婚が認められた
  アイルランドをはじめ25ヵ国で同性婚が認められていますが、
  アジアで同性婚が法律で認められている国はまだありません。
  (引用者注:台湾で2019年5月17日、同性婚を認める法律が可決されました)


  しかし、日本では2015年11月から、
  東京都渋谷(しぶや)区と世田谷(せたがや)区で
  それぞれの条例に基づく証明書が発行されるようになりました。


LGBT問題に関してアジアの、
そして日本の世界における位置づけが明らかにされます。
日本の常識が世界の非常識であることはよくあることです。
僕が知っていた東京都渋谷区、世田谷区の件も
条例に基づく証明書が発行されたことに年月の情報を入れ、触れています。


この後、日本の戦国時代における男性の同性愛「衆道(しゅどう)」、
アメリカ大統領選挙時のトイレ、欧米の街で見かけるレインボーフラッグ、
日本国憲法IOC国際オリンピック委員会)の五輪憲章を取り上げ、
LGBT問題の解説を終えます。


こうしたきめ細かい解説が全編を貫いているのですから、
小さな新書と言えど情報量、情報品質を侮ることはできません。
巻末には池上さんの著書では定番になっている参考文献案内を掲載。
それぞれの問題について読者がさらに深掘りできるように配慮してくれます。
どの参考文献から、池上さんがどの箇所をどんなふうに引用しているか知ることも
知のインプットとアウトプットのための勉強になります。


僕はさっそくこれまでの「知ら恥」シリーズを公立図書館で予約し、
週末に読むことにしました。
既に過去のことになっている「世界の大問題」だって、
現在、そして未来につながっていますからね。
池上さんの解説をいまからでも聴いておいて少しも損はありません。


たぶん、僕はこの本のタイトルが好きではなかったんだと思います。
「知らないと恥をかく」って押しつけがましくて、
大きなお世話ですからね。
もしかしたら、どうしても本を売りたかった編集者が
タイトルを提案したのかも、と想像してしまいます。


けれども短縮して「知ら恥」シリーズと呼ぶなら
押しつけがましさがずいぶん減って
むしろ愛着が涌いてきそうな気もします。
言葉って面白いですね。


  編集:辻森康人(株式会社KADOKAWA)、八村晃代


(空港の書店で購入し、機内で予習する読者も数多く存在する「知ら恥」シリーズ)


追記:


池上さんの発言が引用されていたので
クリッピングしておきました。


朝日新聞2019年9月10日朝刊より
パプリックエディターから
新聞と読書のあいだで
河野通和(ほぼ日の学校長、編集者)


  (略)
  聞いて思い出したのは、
  先の冊子<引用者注:「さらば昭和の新聞」(朝日新聞社内資料、2012)>で
  池上さんが「記者はベテラン教授をめざせ」と語っていることです。


  大学の学部生は知識が中途半端なので、乱暴で粗い説明になる。
  大学院生は勉強が深まったぶん、複雑でわかりにくい話をする。
  ところが、ベテラン教授になれば全体がよくわかっているので、
  枝葉をそぎ落とし、要点を簡潔にわかりやすく説明できる、というのです。


  池上さんからは別の言い方を聞いたこともあります。
  「勉強する時は一番効率がいいのは、
  『これを誰かに教えよう』と思うことだ。
  おもしろいし、頭にすっと定着する」。


  そして「子どもにわかるように心がけると、
  結果的に大人からも歓迎される。
  あやふやだった理解が、あれ? 俺知らなかった、となる」


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1994年から11年間、
NHK週刊こどもニュース」のお父さん役で活躍した
池上さんの言葉だけに、説得力がありますね。
元編集者の河野さんが学校長を務めるほぼ日の学校、
僕は知りませんでした。
シェイクスピアなど古典を学ぶ学校なんですね(2017年4月創立)。
下線部クリックでサイトに飛べます。

言霊って絶対あると思います(中川翔子)

クリッピングから
朝日新聞2019年9月12日朝刊 
「若い世代 こう思う」
私を引っ張った言霊たち 
タレント 中川翔子さん


  地獄の中学時代でした。
  絵が好きなことを「キモい」と言われ、
  いじめはエスカレート。
  机に伏していると、皆が私の悪口を言っている気がしました。
  家に帰ると、死にたい気持ちを好きなもので上書きします。
  中学3年の時に「未来戦隊タイムレンジャー」にはまりました。
  (略)


  負のループに陥りがちな性格を変えたのは、
  その後始めたブログです。
  しんどい時も楽しかったことで埋められました。
  言葉たちに引っ張られて、
  次第に前向きな自分になっていきました。
  

  〜が好き、〜になりたいと言ったり書いたりすると、
  どんな形であれ夢に近づけます。
  言霊って絶対あると思います。


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ピンチに陥ったと思ったとき、
まず一呼吸置いて、事態の肯定的側面を探してみる。
それを言葉にして、信頼する仲間に話してみる。
まだピンチから脱却した訳でもないのに
少し心が軽くなった気がした経験がたびたびあります。
僕も言霊ってあると思います。


自分の言葉で経験を率直に語り、
現在いじめで苦しんでいる人たちにエールを送る翔子さんの姿勢に
共感しました。


古谷田奈月『神前酔狂宴』(河出書房新社、2019)

浜野と梶は幡ヶ谷にある派遣事務所カサギスタッフで面接を受けていた。
「時給1200円〜」につられて二人は千駄ヶ谷の高堂神社併設の披露宴会場
高堂会館で働き始めることになる。
二人とも神のことなどどうでもよくて、金オンリーの動機だ。
やがて、もう一人の登場人物・倉地(女性)が現れ、
二人の立つ足元が揺らぎ始める。
古谷田奈月『神前酔狂宴』(河出書房新社、2019)を読む。


神前酔狂宴

神前酔狂宴


文章がいい。
小説は文章がいいと、油断しながら読んでいる読者を
物語にグイグイ引きずり込んでしまう。
登場人物たちが想像を超えて動き出し、
話し始める。


この作品は朝日新聞・中村真理子記者のインタビュー記事で知った。
旧作、新作を読みたい作家にまた一人出会えた。


無限の玄/風下の朱 (単行本)

無限の玄/風下の朱 (単行本)

(2018年、第31回三島由紀夫賞受賞作品)


●●●
追記(2019.11.9)


古谷田奈月さん、
『神前酔狂宴』で第41回野間文芸新人賞受賞。
おめでとうございます!
同じく新人賞に千葉雅也さんが『デッドライン』で受賞。
哲学書だけでなく小説でも才能発揮ですね。


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