短歌/俳句/川柳

盛り付けを終えた夕げの「 。」として(小林真希子)

クリッピングから 讀賣新聞2024年4月16日朝刊 読売歌壇(俵万智選) 今週の好きな歌3首、抜き書きします。 つらいとき見上げる空はすごく青 そうじゃないときそれなりの青 枚方市 坊 真由美 【評】「つらい」「そうじゃない」、 「すごく」「それなり」とい…

芽のやうな寝癖をつけて浅春の(藤 雪陽)

クリッピングから 讀賣新聞2024年4月8日朝刊 読売歌壇(俵万智選) 今週の好きな歌3首、抜き書きします。 芽のやうな寝癖をつけて浅春の 街ゆく早足のサラリーマン 小諸市 藤 雪陽 【評】まだ新人で寝坊でもしたのだろうか。 寝癖の「芽」という素敵な比喩が…

街が消え森が消えても降る雨が(世田夏雪)

クリッピングから 毎日新聞2024年4月1日朝刊 毎日歌壇(加藤治郎選) 今週の好きな歌3首、抜き書きします。 街が消え森が消えても降る雨が 今日は偶然ぼくらに降った 大津市 世田夏雪 ふとももに知らない傷がひとつあり 夜に覗(のぞ)くとにっこりと笑む 堺…

歌に詠まなければ残らない世界の片隅のできごとだ(俵万智)

クリッピングから 讀賣新聞2024年4月1日朝刊 読売歌壇(俵万智選) 今週の好きな歌3首、抜き書きします。 読み聞かせた童話を思い出しながら 木こりの気分で切るブロッコリー 平塚市 小林真希子 【評】童話の世界が、 声に出して読んだ本人の身体に深く染み…

保育園児は木の芽草の芽(諸井末男)

クリッピングから 讀賣新聞2024年3月25日朝刊 読売歌壇(俵万智選) 今週の好きな歌3首、抜き書きします。 残雪に明るむ庭に遊びゐる 保育園児は木の芽草の芽 青梅市 諸井末男 【評】まもなくの春。 はつらつと遊ぶ園児たちの様子が目に浮かぶ。 季節に合っ…

いつか終わるとしてもいまじゃなかった(桐島あお)

クリッピングから 讀賣新聞2024年3月19日朝刊 読売歌壇(俵万智選) 今週の好きな歌3首、抜き書きします。 家中に枯れた葉っぱが落ちていて 終着点で二歳はねむる 東村山市 月出里ひな 【評】外遊びで拾ってきた葉っぱだろう。 ヘンゼルとグレーテルのパン屑…

柑橘系の会話が残る(森久保りりか)

クリッピングから 毎日新聞2024年3月11日朝刊 毎日歌壇(加藤治郎選) 好きな歌3首、抜き書きします。 通学路「これみかん?」「ゆず?」「ゆずだこれ」 柑橘(かんきつ)系の会話が残る 横須賀市 森久保りりか <評>生徒の会話を聞いている。 みかんとゆず…

東京の言葉で綺麗に笑われた春(中島遙)

クリッピングから 讀賣新聞2024年3月11日朝刊 読売歌壇(俵万智選) 今週の好きな歌3首、抜き書きします。 方言で喋ってみてよ 東京の言葉で綺麗に笑われた春 小金井市 中島遙 【評】地方から東京へ転校した場面だろうか。 ただ方言が珍しいという意味ではな…

ババなんて持っていないの顔をする(富見井 高志)

クリッピングから 讀賣新聞2024年3月4日朝刊 読売歌壇(俵万智選) 今週の好きな歌3首、抜き書きします。 ババなんて持っていないの顔をする 近ごろどうだと娘に問えば 東京都 富見井高志 【評】父は、娘の表情に 何かしら心に隠し事がある気配を感じたのだ…

こ、こ、ろって落ちた消しゴム拾い上げ(初夏みどり)

クリッピングから 毎日新聞2024年2月26日朝刊 毎日歌壇(加藤治郎選) 今週の好きな歌3首、抜き書きします。 こ、こ、ろって落ちた消しゴム拾い上げ 僕は明日から帰宅部になる 堺市 初夏みどり <評>部活をやめる。心が折れたのだ。 初句は心と消しゴムが転…

コンテンポラリー・ダンスを踊るレジ袋(鎌田如水)

クリッピングから 讀賣新聞2024年2月26日朝刊 読売歌壇(俵万智選) 今週の好きな歌3首、抜き書きします。 空っぽのわたしがさみしそうだから 造花みたいな予定で埋める 越谷市 あきやま 【評】空っぽ→花瓶→造花という連想だが、 花瓶と言わないところが工夫…

まだ慣れてゐないだけだよ靴擦れに(小金森まき)

クリッピングから 讀賣新聞2024年2月19日朝刊 読売歌壇(俵万智選) 今週の好きな歌3首、抜き書きします。 銀紙がきみに折らせた鶴三羽 翼にミントの香りを残す 大和郡山市 大津穂波 【評】まるで銀紙が望んで転生し、 前世の香りを残す鶴になった物語のよう…

古希越えし吾に復職依頼書が(岡本雅子)

クリッピングから 讀賣新聞2024年2月12日朝刊 読売歌壇(栗木京子選) 好きな歌3首、抜き書きします。 電線がびぃーんと唸る曇天に 雪の降り積む能登の記事読む 鹿嶋市 大熊佳世子 【評】被災地の天候が 穏やかでありますように、と祈る日々。 電線の鳴る「…

鍵盤でトランポリンをするように(田中澄子)

クリッピングから 讀賣新聞2024年2月12日朝刊 読売歌壇(俵万智選) 今週の好きな歌3首、抜き書きします。 一枚の葉もなきいちやうの並木道 遠近感が夏とは違ふ 匝瑳市 椎名昭雄 【評】葉が繁っていれば、 光や風が伝えてくる情報も多い。 遠近感という語が…

失いしわが日と木の葉とじこめながら(寺山修司)

俵万智『短歌をよむ』(岩波新書、1993)を読む。 短歌をよむ (岩波新書 新赤版 304)作者:俵 万智岩波書店Amazon さよふくるままにみぎはやこほるらむ 遠ざかりゆく志賀の浦波 快覚(『後拾遺集』冬) 志賀の浦は、琵琶湖の湖岸で、現在の大津市があるところ…

合格は君を遠くへ連れてゆく(檜沢さくら)

クリッピングから 讀賣新聞2024年2月5日朝刊 読売歌壇(俵万智選) 今週の好きな歌3首、抜き書きします。 合格は君を遠くへ連れてゆく 小児PASMOを切り替える春 横浜市 檜沢さくら 白菊が冬の螢にみえたから あぁ今わたし寂しいんだな 日高市 金沢潤子 日常…

セロファンとリボンを剥けば花たちは(大岩真理)

クリッピングから 讀賣新聞2024年1月29日朝刊 読売歌壇(俵万智選) 今週の好きな歌3首、抜き書きします。 いつもよりシャワーヘッドの位置高し そうだ息子が帰ってきたんだ つくば市 小林浦波 【評】小さな違和感に宿るリアリティが素晴らしい。 自分より背…

あたしをちゃんとこどもにさせる(紺屋小町)

クリッピングから 讀賣新聞2024年1月22日朝刊 読売歌壇(俵万智選) 今週の好きな歌3首、抜き書きします。 万智さんの評と一緒に読むと深く味わえます。 母さんの刻む野菜はちいさくて あたしをちゃんとこどもにさせる 横浜市 紺屋小町 【評】何歳になっても…

水換えを引き継ぐ人はいないから(本田 岳)

クリッピングから 讀賣新聞2024年1月15日朝刊 読売歌壇(俵万智選) 今週の好きな歌3首、抜き書きします。 水換えを引き継ぐ人はいないから 花瓶を洗う退職の朝 大和郡山市 本田 岳 【評】仕事の引き継ぎは済ませたのだろうが 「花を飾る」という個人の営み…

コボちゃんの小袋にピーターラビットが入っていた

読売新聞東京本社文化部から 1000円の図書カードが届いた。 前略 平素より読売新聞をご愛読いただき、 誠にありがとうございます。 このたびは「読売歌壇・俳壇」にお寄せくださいました作品を、 十二月二十五日付の朝刊に掲載させていただきました。 つきま…

昔ならきっとどこかに出かけてた(黒田道子)

クリッピングから 讀賣新聞2024年1月8日朝刊 読売歌壇(俵万智選) 今週の好きな歌3首、抜き書きします。 真夜中に走り回って 早朝に戻ったような二匹のシーサー 守口市 小杉なんぎん 昔ならきっとどこかに出かけてた ガラス戸越しに日射し眺める 大阪市 黒…

俵万智さんに初めて選んでもらいました

クリッピングから 讀賣新聞2023年12月25日朝刊 読売歌壇(俵万智選) 今週の好きな歌3首、抜き書きします。 あやとりはやっぱ赤色ジグザグの 東京タワー建てて壊して 豊中市 葉村 直 【評】やっぱ赤色という勢いのある断言に、 下の句で大いに納得させられる…

黒・白・紺・灰は干されて(松本尚樹)

クリッピングから 讀賣新聞2023年12月18日朝刊 読売歌壇(俵万智選) 今週の好きな歌3首、抜き書きします。 黒・白・紺・灰は干されて 青空と夕空のない僕のベランダ 富士見市 松本尚樹 【評】モノトーンの洗濯物で埋め尽くされたベランダ。 現実には、ただ…

さざなみ、きみの呼吸、さざなみ(葉村 直)

クリッピングから 讀賣新聞2023年12月12日朝刊 読売歌壇(俵万智選) 今週の好きな歌3首、抜き書きします。 目的地付近で黙るカーナビと、 さざなみ、きみの呼吸、さざなみ 豊中市 葉村 直 【評】急に寡黙になったカーナビのせいで、 君の息づかいが意識され…

大人たちの低い視界にとどくまで(葉村 直)

クリッピングから 讀賣新聞2023年12月4日朝刊 読売歌壇(俵万智選) 今週の好きな歌3首、抜き書きします。 大人たちの低い視界にとどくまで この初雪はぼくたちのもの 豊中市 葉村 直 【評】物理的には大人のほうが視点は高いけれど、 子どもの視線は空を自…

三十分からだに夕日を染み込ませ(井原茂明)

讀賣新聞2023年11月27日朝刊 読売歌壇(俵万智選) 今週の好きな3首、抜き書きします。 週末の予定をきみに訊いてから もう貸切の胸の一角 奈良市 toron* 【評】約束をしたわけではないけれど、 きみの予定に合わせて、 心がスタンバイしているのだろう。 そ…

満月のドアノブぐんと手をかけて(山田香ふみ)

クリッピングから 讀賣新聞2023年11月20日朝刊 読売歌壇(俵万智選) 今週の好きな歌3首、抜き書きします。 満月のドアノブぐんと手をかけて 夜空の裏の色を知りたい 川崎市 山田香ふみ 【評】満月をドアノブに見立て、 そのドアを開けた向こう側の景色を想…

嫌とこたえるわたしをあいして(荷葉)

クリッピングから 讀賣新聞2023年11月14日朝刊 読売歌壇(俵万智選) 今週の好きな歌3首、抜き書きします。 整列をしようとするな言葉たち 三十一文字は今は求めぬ さいたま市 樋口直子 【評】心が揺れたとき「あ、これ歌になるかも」と思う。 それ自体は悪…

ペンネーム「くらげ」を「みほ」に変えました(小川美帆)

クリッピングから 讀賣新聞2023年11月6日朝刊 読売歌壇(俵万智選) 今週の好きな歌3首、抜き書きします。 ペンネーム「くらげ」を「みほ」に変えました どの瞬間も私でいたい 大阪市 小川美帆 【評】本名に近いペンネームに変えることは、 常に自分というも…

つぎつぎと書類のように葉が積もる(あきやま)

クリッピングから 讀賣新聞2023年10月30日朝刊 読売歌壇(俵万智選) 今週の好きな歌3首、抜き書きします。 つぎつぎと書類のように葉が積もる 忙しそうな秋の職場で 越谷市 あきやま 【評】書類が木の葉のように降り積もる職場ではない。 書類のように木の…