少子化社会に希望を差す、愛情スイッチ(長谷川眞理子)


スクラップブックから
毎日新聞2018年1月8日(日曜版)
時代の風 長谷川眞理子総合研究大学院大学長)
犬と暮らす 少子化社会に差す希望



   私はイヌが大好きで、
   現在、スタンダード・プードルを2匹飼っている。
   上の子は今年で14歳のキクマル。
   下の子は3歳になったばかりのコギク。
   (略)


   2歳までのコギクはいたずら盛りで、
   どれだけ大事な物を壊されたか。
   (略)


   そんなときには、
   こちらも頭にきて本気で怒るのだが、
   やはり可愛いので抱っこすると、
   私の肩にあごをのせて眠ってしまった。


   その柔らかい手触りとぬくもり。
   そのとき、本当に心の底から
   この子が可愛いという感情が湧いてきた。
   (略)


   きっとそのとき、私の脳内に
   オキシトシンという愛情ホルモンがどっと出て、
   受容体がそれを感知し、
   情動系に不可逆の変化が起こったに違いない。
   (略)



   告白すると、
   私は人間の子どもがあまり好きではなかった。
   (略)


   ところが、である。
   コギクが心底可愛いと感じるようになって
   しばらくたったころ、
   通勤の電車の中で本を読んでいるとき、
   同じ車両に乗っていた赤ちゃんが泣き出した。


   かなりうるさかったのだが、
   なんと私はうるさいとも嫌だとも感じることなく、
   「あれれ、あの子はどうしたのかな?」
   と心配している自分に気づいたのであった!


   つまり、私の「子ども可愛い」感情は、
   コギクというイヌを刺激として開発されたのだが、
   この感情が「人間一般」に拡張されていたのである。
   (略)


   少子化は起こっているものの、
   逆に犬猫などのペットは増え、
   「少子多犬」の時代である。


   イヌがきっかけとなって、
   子どもをケアする心を持つ人の数が増えていけば、
   この先の社会に希望が持てるようになると期待したい。



歴代の猫たちと一緒に暮らすようになって、
同居人も僕も脳内にオキシトシンが分泌する機会が
増えたような気がする。
科学者の書くエッセイは、
自分の感覚だけで完結するのでなく、
事実、理論の裏付けがあって新鮮だ。


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日郄さんのベストエッセイ集にも
同じ新鮮さを感じた。
長谷川さんも、日郄さんも、
エッセイストとしても一流だからで
すべての科学者がエッセイの達人と言うのでは無論ないけれど。


wikipedia:長谷川眞理子
(文中一部敬称略)