悪質な行為と人物像が結びつかない(忠鉢信一)


スクラップブックから
朝日新聞2018年1月11日朝刊
視点/カヌー 薬物混入



   加害者の鈴木康大(やすひろ)選手は、
   小松正治(せいじ)選手に対する薬物混入事件だけでなく、
   7年前ごろから他にも嫌がらせをしていた。
   しかし悪質な行為と人物像が結びつかない。
   (略)


   後輩の活躍で代表の座が危うくなったので
   足を引っ張ったという釈明も、
   醜い感情だが、社会のどこにでも潜んでいる。
   自らとカヌー競技をおとしめる重大な行為の動機としては
   飛躍が過ぎる。


   ギャップを埋めるパーツを探して取材を進めたところ、
   気になることが二つあった。
   一つは、禁止薬物をインターネット通販で購入した時期が、
   昨年のスプリント世界選手権の直前にあった
   ハンガリー遠征の最中だったことだ。
   (略)


   当時の選手選考に、
   連盟が公表している基準と一致しない面があり、
   鈴木選手にとって不公平だったのではないかと
   複数の関係者が指摘した。


   もう一つは、
   鈴木選手が2016年リオデジャネイロ五輪の出場を逃し、
   いったん引退した後、復帰した過程だ。
   (略)


   鈴木選手は義父の会社の従業員。
   互いの自宅も近い。
   鈴木選手らが運営するスポーツジムは、
   元五輪選手の妻も指導するとあって地元で有名だ。
   義父に、重圧をかけたことになっていなかったかと聞くと
   否定したが、鈴木選手はどう思っていたのか。


   連盟は鈴木選手を除名にする方針だが、
   自身が道を踏み外してしまった経緯を語らせ、
   後進の選手に伝え続けた方が、
   カヌー競技と鈴木選手の再生に役立つと、私は思う。
                    (忠鉢信一



事件の経緯をテレビや新聞で知って、
鈴木選手を非難するのは簡単だ。
だが、報道されていないことが裏面があるのではないか……


そう思っていたタイミングに
事実関係を急いで再検証し、
一方的な見方に意義を唱えた忠鉢記者の記事。
多数の声に流されない視点がよかった。
調査報道として続報を読みたい。