ヘーゲル/長谷川宏訳『歴史哲学講義(上)』(岩波文庫、1998)


古典を二つの翻訳で読むのは意外に面白い。
格調高い武市健人訳に対して、長谷川宏訳は親しみやすい。
ヘーゲル長谷川宏訳『歴史哲学講義(上)』(岩波文庫、1998)を読む。


歴史哲学講義 (上) (岩波文庫)

歴史哲学講義 (上) (岩波文庫)


僕が夜ごと通う「冥界大学」では、
各領域で超一流の講師たちの講義が繰り広げられる。
階段教室の一席を占め、僕はメモを取り、聴き惚れる。


あれほど頭の切れるヘーゲル
地域、時代によって露骨に差別するのが面白い。
中国、インド、ローマに辛口で、
ペルシャギリシャ、ゲルマンに甘い。


こんな言葉に出会うと、ハッとする。


   ここにはじめてわたしたちは、
   歴史上の移行というものを、
   つまり、帝国の没落を目(ま)のあたりにします。
   (略)


   この移行に目をむけるとき、
   たとえばペルシャについてただちに思いうかぶのは、
   中国とインドは国が存続するのに、
   ペルシャはなぜ没落したか、という疑問です。


   ここでなにより遠ざけねばならないのは、
   滅亡よりも存続のほうがすぐれたことだ、という偏見です。
   かわることのない山のほうが、
   香りをうしなってあわただしく葉を落とす薔薇(ばら)よりも
   すぐれているわけではない。
                      (p.361)



「滅亡より存続のほうがすぐれたことだ、という偏見」。
なかなか書けない一文だな。
それに続く詩的な一節も深く印象に刻まれた。