古典を二つの翻訳で読むのは意外に面白い。
格調高い武市健人訳に対して、長谷川宏訳は親しみやすい。
ヘーゲル/長谷川宏訳『歴史哲学講義(上)』(岩波文庫、1998)を読む。
- 作者: ヘーゲル,長谷川宏
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1994/06/16
- メディア: 文庫
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僕が夜ごと通う「冥界大学」では、
各領域で超一流の講師たちの講義が繰り広げられる。
階段教室の一席を占め、僕はメモを取り、聴き惚れる。
あれほど頭の切れるヘーゲルが
地域、時代によって露骨に差別するのが面白い。
中国、インド、ローマに辛口で、
ペルシャ、ギリシャ、ゲルマンに甘い。
こんな言葉に出会うと、ハッとする。
ここにはじめてわたしたちは、
歴史上の移行というものを、
つまり、帝国の没落を目(ま)のあたりにします。
(略)
この移行に目をむけるとき、
たとえばペルシャについてただちに思いうかぶのは、
中国とインドは国が存続するのに、
ペルシャはなぜ没落したか、という疑問です。
ここでなにより遠ざけねばならないのは、
滅亡よりも存続のほうがすぐれたことだ、という偏見です。
かわることのない山のほうが、
香りをうしなってあわただしく葉を落とす薔薇(ばら)よりも
すぐれているわけではない。
(p.361)
「滅亡より存続のほうがすぐれたことだ、という偏見」。
なかなか書けない一文だな。
それに続く詩的な一節も深く印象に刻まれた。
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