佐藤正午『鳩の撃退法(下)』(小学館、2014/2018文庫)


不思議な小説だった。
サスペンス、ミステリーのようでいて
ほとんど事件は起こらない。
物語もさして展開を見せない。
それなのに結局最後まで読んでしまう。
読ませる力がある。
なんなんだろうね、これは。
佐藤正午『鳩の撃退法(下)』(小学館、2014/2018文庫)を読む。


鳩の撃退法 下 (小学館文庫)

鳩の撃退法 下 (小学館文庫)


奇妙なタイトルの理由は
この下巻で明らかになる。
鳩は偽札だ。
鳩が飛び立つのは、偽札が誤って流出することだ。
三枚の偽一万円札の「鳩」が飛び立ち、飛び回ることで
物語が動き出し、人間たちが翻弄される。


ツイッターに「おもしろかった」と書いたために
巻末解説を書くことになった糸井重里さんの
「この本を手にしながらのむだ話。」がなかなか読ませる。
最後の部分を引用する。


   佐藤正午『鳩の撃退法』が、わたしの憧れである理由は、
   とにかくすべてのことばの並びが、
   「感じがよくてかっこいいから」である。
   

   そして、ちょっと想像するのだ。
   作者本人の考える小説のおもしろさとは、
   「なんにも言ってなくても、ずっとおもしろく書き続けられて、
   ずっとおもしろく読めちゃうもの」なのではないかなぁと。


   ちがってたら、ごめんと言うだけで済むので、
   憧れているだけの立場とはらくちんなものだなぁ。


        (いとい・しげさと/「ほぼ日刊イトイ新聞」主宰)


もちろん、最後の一文は
糸井さん一流の韜晦だろうけど。
佐藤正午直木賞受賞作もいつか読んでみようかな。


月の満ち欠け

月の満ち欠け

wikipedia:佐藤正午
(文中一部敬称略)