中村文則『R帝国』(中央公論新社、2017)


安倍政権を支持する讀賣新聞夕刊に2016〜17年連載。
中村が描く未来社会には
昨今の日本政府を彷彿とさせる場面も出てくる。
この作品を讀賣グループ傘下で出版できる日本の方が、
言論の自由の点ではR帝国よりはだいぶましなのだろう。
中村文則『R帝国』(中央公論新社、2017)を読む。



ナショナリズム、宗教による対立など現代社会の問題を巧みに取り入れ、
中村版 "1984" とも言えるディストピア小説に仕上げた。
HP(Human Phone)と呼ばれる人工知能搭載携帯電話が
物語の重要な鍵を握る。
救いの見えない展開に途中で読むのを止めようかと思ったが、
作者の筆力で最後まで読むことになった。



AIが人間の知能を超えることはないと
新井紀子著作を読んで納得したので、
HPがこの小説のような役割を果たすことは現実にはないと思う。


けれども人間の持つ欲望、
欲望に振り回される人間についての描写には説得力があった。
党幹部の加賀、早見は、スターリン政権下のソ連
毛沢東政権下の中国に存在したとしても不思議ではない。
中村文則の代表作になる作品だと思う。