村上春樹『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』(文藝春秋、2013)(再読)

自分にとって本の読み頃というのは
他人とは一切関係ないんだなと実感する。
村上春樹色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年
文藝春秋、2013)を再読。


色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年

色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年


帯に書かれていた「著者インタビュー」を引用する。


   ある日ふと思い立って、
   机に向かってこの小説の最初の数行を書き、
   どんな展開があるのか、どんな人物が出てくるのか、
   どれほどの長さになるのか、何もわからないまま、
   半年ばかりこの物語を書き続けました。


   最初のうち僕に理解できていたのは、
   多崎つくるという一人の青年の目に映る
   限定された世界の光景だけでした。
   でもその光景が日々少しずつ変貌し、
   深く広くなっていくのを見るのは、
   僕にとってとても興味深いことだったし、
   ある意味では心を動かされることでもありました。


物語の中で重要な位置を占めると思いきや、
その後のなりゆきがわからないままになってしまった箇所もある。
大学時代、つくるの数少ない友人で突然故郷に帰った灰田。
大分県山中の温泉宿で灰田の父が青年だった頃出会ったピアニスト、緑川。
作家本人さえ展開の分からない光景だったと考えれば
それも自然なことに思える。
僕たちが生きる現実も、どれが物語の本筋で、どこが脇筋なのか、
予測はしばしば外れ、自分でもまったく思わなかった光景が広がることがある。



最初に読んだときに印象に残った最後の三行は、
やはり好きだった。
ネタバレにはならないと思うので引用する。


   彼は心を静め、目を閉じて眠りについた。
   意識の最後尾の明かりが、遠ざかっていく最終の特急列車のように、
   徐々にスピードを増しながら小さくなり、
   夜の奥に吸い込まれて消えた。
   あとには白樺の木立を抜ける風の音だけが残った。
                          (p.370)


愛情を電話で告白した沙羅の返事をもらうのは明日だ。
自分を選んでくれるのか、それともあの男か。
結末を書かずに物語を閉じて、読者の心に余韻を残す。
その終わり方がいい。


Colorless Tsukuru Tazaki and his Years of Pilgrimage: A novel

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