池上彰 x 佐藤優『希望の資本論』(朝日新聞出版、2015)(再読)

マルクス『資本論』を読む現代的意義を読者に伝えようと、
論客ふたりががっつり取り組んだ一冊。
池上彰 x 佐藤優『希望の資本論—私たちは資本主義の限界に
どう向き合うか』(朝日新聞出版、2015)を再読する。



池上の「はじめに」から引用する。
書名の由来が最初に書いてある。


   閉塞感を希望に変えるために
             (p.1)


日本社会を覆う空気を「閉塞感」と捉える。
資本論』のエッセンスを読み解くことが
「希望」につながると池上は指摘しているのだ。


   ソビエトを盟主とした社会主義諸国が崩壊してから、
   マルクスの『資本論』は、過去の遺産のような扱いでした。
                        (p.1)


   私たちは、何のために働くのか。
   働くという労働こそが、社会の富を生み出す。
   これがマルクスの労働価値説です。
   働くことで富を生み出す。
   ところが、がむしゃらに働くことで、
   生活が一層貧しくなってしまうというのが、
   資本主義のパラドックスです。
                    (p.2)


   正統派マルクス主義者は、
   「資本主義は必然的に崩壊する。
   労働者は、資本主義打倒のために立ち上がれ」
   とでも言ったのでしょうが、
   佐藤氏の主張は違います。
   資本主義の論理をよく理解できれば、
   資本主義社会で幸せに暮らせるのだ、というのです。


   それは、資本の論理を知ることで、
   資本の論理に絡めとられない生活を送ることができるから、というわけです。
   佐藤氏にかかると、『資本論』は、
   資本主義社会で元気に生きるエネルギー源になってしまいます。
                               (pp.2-3)


…と書いた後で行変えして、


   「というのは冗談ですが」


と一言添えられるのが池上さんの知性だと思います。
こう続けます。


   というのは冗談ですが、佐藤氏の透徹した論理の鋭さは、
   かつて高校時代からマルクスと格闘してきた過去があるからだ、
   ということが、今回対談してわかりました。
                          (p.3)


そしてこうまとめて
「はじめに」を書き終えます。


   たいして勉強していない私としては、
   佐藤氏の、縦横無尽に進んで、
   ときに大きく脱線する話についていくのに必死でしたが、
   そこから新たな気づきも生まれてきました。
   読者のあなたも、これを読むと、
   自分なりの新たな気づきが生まれるはずです。


   『資本論』は、かつて「運動の書」、「革命の書」として
   もてはやされました。
   しかし、『資本論』を読めば、すべてが解決するわけでもありません。
   ここから得られる資本の運動の論理の理解。
   これが、社会の荒波に出て行く若者にとって
   救命ボートの役割を果たすものと確信しています。
                           (p.3)


「社会の荒波に出て行く若者にとって救命ボートの役割」に
池上のメッセージが込められています。
謙虚に、かつしたたかに、佐藤との対談の機会をフル活用し、
メイン読者として想定する若者たちに必要不可欠と自分が信じるメッセージを
着実に伝達する。
プロのジャーナリストの、教育者の仕事です。


いやぁ理屈はともかく、ふたりの対談本はどれも内容が濃く
再読しても面白い!
知の越境が自在にできる在野の知識人の洞察を
僕もシニア・ライフの「救命ボート」に使わせてもらっている。


希望の資本論 (朝日文庫)

希望の資本論 (朝日文庫)

(文庫版も出ている。巻末の「『資本論』を読み解くための8冊 文:矢内裕子」が
コンパクトにまとまっていてさらに勉強する際に役立つ)