クリッピングから
朝日新聞2019年7月23日夕刊
世界発2019
世界とつながらない北朝鮮スマホ
北朝鮮のスマホを入手した。
携帯電話は北朝鮮では高額で、
当局に厳しく管理されているが、
それでも普及率が2割を超えているという。
(編集委員・牧野愛博)
北朝鮮関係筋から入手したスマホは
「平壌」と並ぶ北朝鮮の2大ブランドの「アリラン」。
北朝鮮でスマホは「タッチホン」と呼ばれ、2013年に登場した。
このスマホは15年に出た改良型の「アリラン151」という。
(略)
携帯の普及に伴い、各地の食糧価格が平準化した。
より安い食糧を求める人々が情報交換した結果だ。
逆に、少しでも高く売りたい商人らも携帯を手放せない。
道路や鉄道での取り締まり活動、山菜の自生地といった生活情報を
交換する役割も果たしている。
決して安くはない。
平壌市民4人家族で1カ月の最低限の生活費が
100ドル(1ドル=108円)とされるところ、
「アリラン」は620ドル、「平壌」は740ドル。
一番安い旧式携帯でも270ドルという。
(略)
韓国・北韓改革放送の金承哲(キムスンチョル)代表によれば、
携帯を婚約指輪代わりに女性に贈ることが数年前から各地にみられるといい、
流行ぶりがうかがわれる。
(略)
だが北朝鮮関係筋は
「北朝鮮でアラブの春は絶対に起きない」と断言する。
04年4月に平安北道竜川(ピョンアンプクトリョンチョン)駅で起きた
列車爆発事故以降、携帯電話の国内サービスは一時中止に。
08年に再開したのは
「当局が100%の盗聴に自信を持ったため」(同筋)という。
携帯を購入する際は逓信管理局に申請書を提出する。
担当の保衛員(秘密警察)、保安員(一般警察)らの署名が必要だ。
携帯番号は市民1人に一つで無断譲渡はできない。
国内で閉じられたネットワーク(イントラネット)での通信だけが可能で、
外部のインターネットには接続できない。
通信内容は当局が自動的に記録、3年間保存する。
問題が発生すれば、いつでも照会できる。
(略)
北朝鮮の市民生活を最近流行の携帯(スマホ)の視点で取り上げた記事。
各地の食糧価格平準化に役立った話が面白かった。
一国内でしか通用しないネットワーク(イントラネット)だからこそ、
先進諸国ではとうてい実現しえない実証実験ができている。