ドア越しに母の呼ぶ声おれは今(土居健悟)

クリッピングから
讀賣新聞2019年8月12日朝刊
読売歌(俳)壇 俵万智


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この歌(俳)壇では投稿時に選者を希望できるんですね。
俵万智さんの選歌・評を読んでみました。


  空間にポンとはんこを押すように
  輪ゴムを跳ばす君の指先
         高島市 宮園佳代美
  

  【評】よくある動作だが、軽く狙いをつけている感じが、
  「空間にはんこ」という新鮮な比喩でとらえられた。
  ささやかなことにも目を奪われる相聞の気分が、うまく出ている。


俵さんの限られた字数で書く評の技に感心しました。
評自体がまるで歌のように聞こえます。
そうか、プロの歌人だものね。
宮園さんの句を評して
「相聞」の一言がスッと出るところがいかにも俵さんらしい。
評は付いていないけれど、
選者の目を感じる句がいくつかありました。


  ドア越しに母の呼ぶ声おれは今
  無言で返事がしたい年頃
             福岡市 土居健悟


引きこもり? 反抗期?
理屈でなく親を避けたい年頃の感じがよく出ている歌でした。


  近頃の時間どろぼうどこにいる
  スマホの中にたっぷりといる
             八王子市 鈴鹿直之


そうか、「時間どろぼう」と読むんですね。
ミヒャエル・エンデ『モモ』ですね。
僕はうっかりこう区切って読んでました。


  近頃の時間 どろぼうどこにいる 
  スマホの中にたっぷりといる


スマホの中に詐欺やどろぼうがいるって真実だし、
新しいなと思って。


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こうして眺めていると
歌の世界もなかなか面白そうだなぁ。
うっかり見逃していた日常の一コマ、
そのとき言葉にしなかった一コマが、歌になって表れてくるんですね。


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(読んでみたくなった一冊)