「特休」と皆が書く中「休」とだけ(群青更紗)

クリッピングから
讀賣新聞2019年9月16日朝刊
読売歌壇(俵万智選)


今週の優秀作3句の中では
最初の句が一番心に残った。


  蝉時雨、花火大会、甲子園、遠くの音を聴くだけの夏
  狭山市 えんどうけいこ


  【評】上の句、賑(にぎ)やかで華やかな夏の風物詩かと思いきや、
     明かされる三つの共通点に、はっとさせられる。
    「聴く」という漢字からは、耳を澄ませ、
     想像をしていることが伝わってくる。
     手ざわりの希薄な夏の寂しさ。


「手ざわりの希薄な夏の寂しさ」。
俵さんの評の言葉づかいの正確さに心を引かれる。


入選句にもいいものがあった。


  一歩前歩いていたら殺(や)られたと終戦の日に必ず話す
  東京都 網中節子


話しているのは父か、祖父か。
「殺(や)られた」の一語が読み手の心にグサリと刺さる。


  「特休」と皆が書く中「休」とだけ書きゆく今年も非正規の夏
  四日市市 群青 更紗


「休」とだけホワイトボードに書く非正規社員の心の動きに
「特休」と書く正社員たちはきっと気づかないのだろう。
悪気がない分、余計心に重たい。


  700の登録あれどたった今話せる友が思い浮かばず
  松戸市 菊池玲子


700と数字で句を始めたことで、
スマホ全盛の今のコミュニケーションが鮮やかに描き出された。
その奥に潜む孤独も。


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短歌という表現形式がこんなにも豊かに、深く
人の気持ちに寄り添えるものなのか、と掲載句を読んで思う。
(先日、初投稿しました! 掲載めざして他人の句も勉強しております)


考える短歌―作る手ほどき、読む技術 (新潮新書)

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短歌のレシピ (新潮新書)

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(この二冊、短歌入門に最適です。俵先生、初心者に教えるのがうまい)