イマニュエル・ウォーラーステイン『入門・世界システム分析』(藤原書店、2006)

著者ウォーラーステインは「はじめに」で
「本書は、世界システム分析の入門である。
なにか決定版のようなものとして世に送るものではまったくない」
と控えめに記している。(p.16)


一方山下範久「訳者あとがき」によれば
ウォーラーステイン本人が、明示的に初学者を意識して書いた
世界システム論の入門書」であり「決定版」である。(p.218


イマニュエル・ウォーラーステイン山下範久
『入門・世界システム分析』(藤原書店、2006)を読む。


入門・世界システム分析

入門・世界システム分析


本書の構成は以下の通り。


  謝辞
  はじめに
     —まさにそのなかで生きている世界を理解するということ


  1. 世界システム分析の史的起源
     —社会科学の諸ディシプリンから史的社会科学へ


  2. 資本主義的世界=経済としての近代世界システム
     —生産、剰余価値、両極化


  3. 国家システムの勃興
     —主権的国民国家、植民地、国家間システム


  4. ジオカルチュアの創造
     —イデオロギー、社会運動、社会科学


  5. 危機にある近代世界システム
     —分岐(バイファケーション)、カオス、そして選択


  訳者あとがき
  用語解説
  ブックガイド
  索引


「はじめに」でウォーラーステインはこう語り出す。


  二十世紀の最後の二、三十年以来ずっと、メディアは
  —そして実際のところ社会科学者たちも—
  われわれが生きている世界を支配している
  二つのことがらについて語り続けてきた。
  すなわち、グローバリゼーションとテロリズムである。


続けてサッチャー元英国首相(在職1979〜1990)が掲げた
グローバリゼーションを肯定するスローガン「ほかに選択肢はない」
(TINA [=There Is No Alternative.])を取り上げ、すかさず切り返す。


  このようなグローバリゼーションやテロリズムの描き方は、
  真実に反するものだというわけではないが、非常に偏った見方である。
  われわれは、グローバリゼーションとテロリズムというものを
  限られた時間と視野のなかで定義された現象としてとらえ、
  その帰結として、新聞と変わらない程度の一過性の結論にたどりつきがちである。


  概して言えば、そのような見方をしていては、
  これらの現象の意義、起源、そこからの軌跡、
  そしてなにより大切なことに、
  より大きな枠組みのなかでの位置づけといったものを理解することは不可能である。


  つまりわれわれは、これらの現象に対して歴史を閑却しがちなのであり、
  もろもろの断片を組み立てることができずに、
  短期的な期待が外れては驚くということを繰り返しているのである。
                               (pp.9-10)


知の達人が近現代の混沌に「世界システム分析」の剣で斬り込み、
その見立てを僕たち初学者にも理解できる言葉で語り出す。
5回連続の夏期集中講座に出席できた
スペイン諸大学の40名の大学生、若手教員はなんと幸運だったことだろう。
(本書はスペイン・サンタンデール、メネンデス・ペラヨ国際大学
行われた夏期集中講義のノートが元になった)


僕はその夏、サンタンデールの大学講義室に潜り込み、
ノートを取りながらウォーラーステインの講義に聴き入っている。
一読し、再読し、一言も聞き漏らさないよう
耳を澄ましている。


知の教科書 ウォーラーステイン (講談社選書メチエ)

知の教科書 ウォーラーステイン (講談社選書メチエ)

山下範久論攷が本書理解の道案内として役立った。山下はウォーラーステインの直弟子)