池上彰「知ら恥」シリーズ(角川新書、2009-)

2009年から2019年まで年1冊、10年続いてきた
池上彰の「知ら恥」シリーズ(角川新書)。
全10巻を手元に揃えて随時参照できると
ニュースの読み解きに助かるだろうなと思った。
(最新2巻以外は古書店で格安で購入できる)
池上彰『知らないと恥をかく世界の大問題』
1巻(2009)2巻(2011)を読む。


知らないと恥をかく世界の大問題 (角川SSC新書)

知らないと恥をかく世界の大問題 (角川SSC新書)


分かっているようでも
実はあいまいな知識のままだったことがあるとこの本で知る。
例えば年金。
1巻から引用する。


  年金問題に関しては、
  個人的にはもう今の制度では限界だと思っています。
 「公的年金制度」は、当初は、若くて元気なうちにお金を積み立てて、
  年をとって仕事を辞めたら、これまで自分が納めてきたものを
  毎月少しずつ受け取ろうという仕組みでした。


  それが田中角栄首相のとき、「賦課方式」に変わりました。
  つまり、現役世代から保険料を徴収し、
  高齢者に年金を支払うという仕組みに変わったのです。


  私がNHKの「週刊こどもニュース」のお父さん役をしていたとき、
 「自分が積み立てたお金をもらうのではなく、
  若い人が払っているお金をお年寄りが受け取っているんだよ」と説明したところ、
  お年寄りから「若いもんの世話にはなっていない!」という抗議電話が
  たくさんかかってきたものです。
  制度が変わったことを知らない人たちが大勢いたのですね。
                           (p.138)


そうだったのか!
本書を読むまで僕も知らなかった。
てっきり自分が積み立ててきたお金を
年金としてもらうものとばかり思っていた。
ということは、自分が払ってきた年金保険料は
そのときお年寄りだった方たちに年金として既に支払われ、
とっくになくなっている訳だ。


本書ではこの前説に続けて、
なぜ田中首相のときに制度を変えたか。
そもそも国民皆年金の制度はどういうものか。
なぜ年金制度が行き詰まってきたのか。
最後に未来の制度設計へのヒントと
立案責任者である政権(当時)への期待を順を追って解説していく。


すべて平易な言葉で書かれている。
最新資料に当たって事実を丹念に調べ、
自身が深くその問題について理解していなければこう明快には書けない。


池上さんはどうしてこういう本が書けるのか。
不断の努力は無論だろうが、やはり1994年から11年間、
NHK週刊こどもニュース」お父さん役として鍛えられた実績が物を言っている。
知ったかぶり、半可通ではこどもたちに突っ込まれて
大の大人もタジタジになるからだ。


池上さんは番組が終了した2005年、
55歳でNHKを退社する大きな決断をした。
希望していた論説室への異動を委員長に拒絶され
(それも廊下での通りすがりの会話で!)
NHKでやれることはやり尽くしたとの思いだったのかもしれない。


そのおかげで僕たちは池上さんの著書で多くを学ぶことができる。
「知ら恥」シリーズは世界を読み解くための、
日々の新聞等の報道を筋道立てて理解するための
ベースキャンプに最適だと僕は思う。


本シリーズ全10作品は、
辻森康人(株式会社KADOKAWA)、八村晃代(ライター)が伴走して制作している。
いいチームだ。


これが「週刊こどもニュース」だ (集英社文庫)

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知の越境法 「質問力」を磨く (光文社新書)

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