知らないは、わかるへの第一歩(中西進)

クリッピングから
讀賣新聞2019年10月16日朝刊
時代の証言者
令和の心 万葉の旅 中西進(なかにし・すすむ)
第1回 元号 天の声で決まるもの


  新元号「令和」の考案者とされる中西進さんは、
  90歳になった今も取材に講演に東奔西走、
  執筆にも忙しい毎日を送る。
  いかにして「令(うるわ)しい和」の心を大切にするに至ったのか。
  戦前に始まる好奇心いっぱいの半生を振り返ってもらった。
                    (編集委員 鵜飼哲夫)


  (略)
  8月に卒寿を迎えました。
  「知らないは、わかるへの第一歩」の精神で、
  面白がって研究してきたので毎日が楽しいですよ。
  それが長生きの秘訣(ひけつ)でしょうか。
  (略)


  それでも令と和を取り合わせる発想は長年、ありませんでした。
  万葉集「梅花の宴」の序文にある
  「初春の令月にして 気淑(よ)く風和(やわら)ぎ」から
  新元号は生まれましたね。
  令和と声に出すと語感がいいですねえ。


  命令が思い浮かぶと批判する学者もいますが、
  改めて中国の国語辞典で確認すると「令は善なり」とある。
  善は「論語」では最高の価値を与えられていて、やはりいい言葉です。
  善だからこそ規律は法令とされ、人は自らを律し、令に従う。
  実に「令しい」日本語です。
  (略)


  9月には北海道・根室で講演し、
  万葉集と同時代に花開き、
  忽然(こつぜん)と姿を消した幻のオホーツク文化の遺跡を見学、
  本土最東端の納沙布岬に足を延ばしました。


  好天で北方領土も見えたんです。
  国後・択捉島の航路を開き、日露交渉を円満に解決した北前船の豪商、
  高田屋嘉兵衛の像は立派でした。
  彼の平和外交の精神、
  苦難を乗り越え挑戦する姿には改めて感動しました。


  知るほどに、面白いことが見つかる。
  生きていてほんとうによかったと思う瞬間です。


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卒寿を迎えた今も「知るほどに、面白いことが見つかる」とは
なんと豊かな人生をお過ごしなのだろう。
そんな方が考案されたとされる「令和」を
天が好み、選んだのかな。


万葉の秀歌 (ちくま学芸文庫)

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