各紙の奮戦、どれだけ伝わったのでしょうか(池上彰)

クリッピングから
朝日新聞2019年10月25日朝刊
池上彰の新聞ななめ読み(10月)
ラグビー日本代表の敗退 躍進と壁 解説も奮闘


池上さんが自認するほどのラグビー好きとは知りませんでした。
10月はラグビー日本代表敗退を取り上げ、
各紙を「ななめ読み」していきます。
冒頭からピリッとスパイスを利かせます。


  日本にこんなラグビーファンがいたのだろうか。
  ラグビー好きを自認してきた私としては、驚くばかりです。
  でも、にわかファンでもいい。
  ラグビーの面白さを知ってもらえば。
  (略)


  いや、そもそも20日の準々決勝で日本は負けたのだから、
  どれだけの人が負け試合の解説を読むのか。
  そうは言ってもラグビーの解説記事が多くの人に読まれるのは、
  こういうときしかないのですから、ラグビー担当記者には晴れ舞台です。


  21日付朝刊の1面や社会面の記事は、
  ラグビーに詳しくない人でも理解できる内容にして、
  スポーツ面はラグビーに詳しい人も納得させるものにする。
  各社は、この方針で紙面を作ったのではないでしょうか。
  (略)


  朝日1面は、こう書いています。
  <開始早々にトライを許したが、その後は流れを引き寄せた。
  前半は、ほぼ日本のペース。そこに4年間の進歩があった>
  負けたとはいえ、高い評価です。


  一方、スポーツ面の10面の記事はニュアンスが少し異なります。
  <ノートライの力負けだった。
  4強は日本にとってぶ厚く、高い壁だった。
  (中略)振り返れば、善戦に見えた前半に伏線は敷かれていた。
  日本は球を支配していたが、密集で南アに強い圧力を受けていた。
  球をバックスに展開してもパスの精度は低かった。
  足が止まった状態で球をもらったところに
  狙いすましたタックルを決められた>
  (略)


  日本はたしかに頑張った。だが世界の壁は厚かった。
  この結論を文章で表現しようと各紙奮闘しました。
  どれだけ伝わったのでしょうか。


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池上さんは記者たちの報道の奮闘ぶりを認めながら、
「どれだけ伝わったでしょうか」と冷静に書きます。
敗退に終わった日本代表と4紙の記者たちの奮闘を比較し、
記事の成功・失敗を読者に委ねます。


ジャーナリスト池上さんの
新聞記事を見る目の厳しさ、読者最優先の姿勢が伝わってきます。
奮戦だけでは評価されない。
現場の記者たちはまったく気を許せませんね。


池上彰の新聞勉強術 (文春文庫)

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