佐藤優『人生のサバイバル力—17歳の特別教室』(講談社、2019)

沖縄県久米島(くめじま)高等学校生徒を対象に
2018年6月2日〜3日に行われた特別授業の内容を元に再構成した本。
久米島は著者の母親の生まれ故郷である。
佐藤優『人生のサバイバル力—17歳の特別教室』(講談社、2019)を読む。


人生のサバイバル力 17歳の特別教室

人生のサバイバル力 17歳の特別教室


本書冒頭で久米島高等学校概要を紹介している。


  沖縄本島の西約100キロに位置する離島。
  久米島にある唯一の高等学校。
  1946年に糸満(いとまん)高等学校の分校として開校。
  園芸科と普通科の2学科で構成され、
  2019年4月現在、生徒総数196名。


  2013年度から高校・行政・地域が連携して
  「久米島高校魅力化プロジェクト」を開始し、
  島の豊かな環境を活かした教育や、
  島外から生徒を募集する離島留学制度、
  町営塾でのきめ細かな学習指導などで注目されている。


「はじめに」から引用する。


  1960年1月生まれの私は、もうすぐ60歳の還暦を迎えます。
  そろそろ人生の終わりに備えて、
  自分の仕事を整理しなくてはならないと考えています。
  その過程で、教育に対する関心が
  私の心の中でとても強くなっています。


  21世紀に入って、新自由主義的な競争原理が、
  教育にも入ってきました。
  「選択と集中」によって、都市部の富裕層の子弟と
  そうでない子どもたちの機会の平等が著しく損なわれています。


  そういう状況で、沖縄本島の西100キロメートルにある久米島
  「久米島高校魅力化プロジェクト」と名づけた
  興味深い教育改革を行っています。
  約10年前、久米島高校は存亡の危機に直面しました。
  (略)


  私は、2018年6月2〜3日、久米島に出かけ、
  久米島高校の生徒を相手に特別講義を行いました。
  その講義記録を基に作成したのがこの本です。
  講義では吉野源三郎(よしの げんざぶろう)
  『君たちはどう生きるか』などをテキストにして、
  勉強にどういう意味があるかについて、
  生徒たちと一緒に議論し、考えました。
  知識の定着をチェックする小テストも行いました。
  生徒たちは講義内容をよく理解していました。
  (略)


  今、日本の教育は大きく変わろうとしています。
  2020年の大学入試改革により、これまでの偏差値重視の入試が転換し、
  「自分の頭で考える力」が問われるようになります。
  今回の特別講義では、久米島高校の生徒たちに、
  数値だけでは計れない、これからの時代を生き抜くための知恵、
  人生をサバイバルする力を伝えたいと願いました。
  (略)
                         (p.008-011)



漫画 君たちはどう生きるか

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君たちはどう生きるか

君たちはどう生きるか

君たちはどう生きるか (岩波文庫)

君たちはどう生きるか (岩波文庫)


著者はIV章の項目「贈与、相互扶助、労働力の商品化」で
経済人類学者カール・ポランニーの学説を紹介しながらこう語る。


  贈与というのは、見返りを求めずに
  人に何かをあげることです。
  たとえば久米島には、国公立大学
  偏差値が一定以上の私立大学に行った人に
  無償の奨学金が出る基金があるよね。
  これは久米島生まれの実業家が、
  久米島の教育のために使ってほしいと、
  町に2億円を寄付したものです。


  この基金から、彼は何も見返りを求めていない。
  でも、対価はちゃんとあるんだよ。
  そういう人は尊敬されるでしょう。
  そしてまた、そういう成功者がいることが、
  久米島にとっての誇りになる。


  ビジネスで2億円儲ける人は少なくない。
  しかし、その2億円を何の見返りも求めずに、
  自分のふるさとに寄付する人は非常に少ない。
  久米島出身者にそういう人がいるのは、
  贈与の考え方が久米島の中にあるということです。
                       (pp.109〜110)


人間の経済 I 市場社会の虚構性 (岩波モダンクラシックス)

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人間の経済 II 交易・貨幣および市場の出現 (岩波モダンクラシックス)

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著者はこの数年、高校生、大学生、大学院生、社会人に向けて
これまでの体験、知識を総動員して講義を続けている。
信頼する編集者と組み、講義録を出版することで
講義内容を広く共有する活動に精力的に取り組んでいる。



本書は講談社「17歳の特別教室」シリーズの一冊。


  編集:見田葉子(講談社
  装幀:寄藤文平+古屋郁美(文平銀座)


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