『かがみの孤城』が素晴らしかったので、
旧作を連読したいと思い図書館で借りてきた。
辻村深月『東京會舘とわたし』(上旧館、下新館)
(毎日新聞出版、2016)を読む。
構成が凝っている。
2012年7月17日、32歳で第147回直木賞を受賞した
作家・小椋真護(おぐら・まもる)が大正、昭和、平成に渡って
東京會舘にまつわる人々の10篇の物語を綴っていく。
一方著者は2012年に『鍵のない夢を見る』で直木賞受賞。
虚構の人物・小椋はときに現実の辻村の分身になって
物語っているかのようだ。
僕は下巻第6章「金環のお祝い」
〜昭和51年(1976年)1月18日〜が一番印象的だった。
金婚式二年前に夫を亡くした69歳の芽衣子が
久しぶりに東京會舘を訪れる。
家にこもりがちの日々が続いていたのに、
自分でも意外なことにひとりでディナーを取ることに決める。
夫との思い出のあるレストランだ。
その芽衣子に対するボーイの渡邉の振る舞いひとつひとつに、
東京會舘の伝統、そこで長く働く者の心遣いが反映され、
読む物の気持ちを揺さぶる。
多くの読者を持つ作家である秘密が
僕にも少し分かってきた気がする。