クリッピングから
讀賣新聞2020年3月23日朝刊
読売歌壇(俵万智選)
<希>か<生>かを迷ったという母のいて
ときどき思う真生子の人生
平塚市 小林真希子
【評】名前は単なる記号ではない。
パラレルワールドに生きるもう一人の人生を
想(おも)うような不思議な感覚。
けれどやっぱり自分は真希子だ、
と思うところまでが夢想の着地点だろう。
「パラレルワールドに生きるもう一人の人生」。
万智さんの評の言葉を補助線にして味わうと、
歌のふくらみがいっそう増してくる感じです。
風たちが誘い来るたび首を振り
ここに残ると告げている花
高島市 宮園佳代美
風に揺れる花を見て、
「ここに残ると告げている」と詠む作者の想像力は
なんて豊かなんでしょう。
読者もその風景を可愛らしく思えてきます。
今晩は玉子づくしと妻が言う
玉子だらけが我の反論
守口市 小杉なんぎん
「づくし」と「だらけ」。
言葉づかいを少し変えただけで
妻と夫の食卓の攻防戦が見えてきます。
でも、ホントに口にしたら
妻の仕返しが怖いと僕は思いますけどね。