イスマイル・カダレ『夢宮殿』(創元ライブラリ、1994)

アルバニアという国をご存知だろうか。
バルカン半島南西部に位置し、
北をモンテネグロコソボ、東を北マケドニア
南をギリシャと国境を隣接する人口約300万人(2010)の国家である。


そのアルバニアノーベル文学賞有力候補として
何度も名前を挙げられてきた作家、イスマエル・カダレがいる。
『夢宮殿』(東京創元社、1994/文庫 2012)を読む。


夢宮殿 (創元ライブラリ)

夢宮殿 (創元ライブラリ)


作品紹介文(表4)を引用する。


  そこには、選別室、解釈室、筆生室、監禁室、
  文書保存所等が扉を閉ざして並んでいた。
  国民の見た夢を分類し、解釈し、
  国家の存亡に関わる夢を選び出すこの機関に職を得た青年は、
  その歯車に組み込まれていく。
  国家が個人の無意識の世界にまで管理の手をのばす
  怖るべき世界を描いた、幻想と寓意に満ちた傑作。
  (解説 沼野充義


「訳者(引用者注:村上光彦)あとがき」からも引用する。


  ところでカダレは、
  自作を語った『作家の仕事部屋への招待』のなかで、
  以前から地獄を描きたいと思っていたと語り、
  そして『夢宮殿』の構想を練っているうちに、
  自分がいま古くからの夢を実現しようとしているのに
  気がついた、と述べています。


  「古代ギリシア人が思い描いた冥府の要素が、
  そこにはなにからなにまで揃っていた。
  暗闇がある。あらゆるものがわびしく薄れてゆく。
  時間が石と化したり、逆行したり、静止したりする。
  悪夢があり、意識が痙攣し、希望がもてない……」
                     (p.319)


個人の夢を国家が管理し、そのための専門機関を設立。
全土にくまなく点在させた出張所をネットワークし、
収集人が馬車で夢の記録を回収していく。
読書人たちが既に指摘していることだが、
フランツ・カフカ『城』、ジョージ・オーウェル1984
などを連読するとより深く味わえる作品だ。



原著はアルバニア語で発表され、
訳者は定評のあるフランス語訳から翻訳した。
カダレによれば、アルバニア語の原題は『<夢宮殿>の職員』の意味になる。
主人公マルク=アレムにスポットライトを当てているのが分かりやすい。


でも僕は『夢宮殿』と言い切って、
この摩訶不思議で、気味の悪い官僚組織を浮かび上がらせた
村上の日本語題名が気に入っている。
本書は作家・佐藤優さんの紹介で知った。


砕かれた四月

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死者の軍隊の将軍 (東欧の想像力)

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The Palace Of Dreams (Vintage Classics)

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  • 作者:Kadare, Ismail
  • 発売日: 2008/12/04
  • メディア: ペーパーバック