アルバニアという国をご存知だろうか。
バルカン半島南西部に位置し、
北をモンテネグロ、コソボ、東を北マケドニア、
南をギリシャと国境を隣接する人口約300万人(2010)の国家である。
そのアルバニアにノーベル文学賞有力候補として
何度も名前を挙げられてきた作家、イスマエル・カダレがいる。
『夢宮殿』(東京創元社、1994/文庫 2012)を読む。
- 作者:イスマイル・カダレ
- 発売日: 2012/02/29
- メディア: 文庫
作品紹介文(表4)を引用する。
そこには、選別室、解釈室、筆生室、監禁室、
文書保存所等が扉を閉ざして並んでいた。
国民の見た夢を分類し、解釈し、
国家の存亡に関わる夢を選び出すこの機関に職を得た青年は、
その歯車に組み込まれていく。
国家が個人の無意識の世界にまで管理の手をのばす
怖るべき世界を描いた、幻想と寓意に満ちた傑作。
(解説 沼野充義)
「訳者(引用者注:村上光彦)あとがき」からも引用する。
ところでカダレは、
自作を語った『作家の仕事部屋への招待』のなかで、
以前から地獄を描きたいと思っていたと語り、
そして『夢宮殿』の構想を練っているうちに、
自分がいま古くからの夢を実現しようとしているのに
気がついた、と述べています。
「古代ギリシア人が思い描いた冥府の要素が、
そこにはなにからなにまで揃っていた。
暗闇がある。あらゆるものがわびしく薄れてゆく。
時間が石と化したり、逆行したり、静止したりする。
悪夢があり、意識が痙攣し、希望がもてない……」
(p.319)
個人の夢を国家が管理し、そのための専門機関を設立。
全土にくまなく点在させた出張所をネットワークし、
収集人が馬車で夢の記録を回収していく。
読書人たちが既に指摘していることだが、
フランツ・カフカ『城』、ジョージ・オーウェル『1984』
などを連読するとより深く味わえる作品だ。
- 作者:フランツ カフカ
- 発売日: 2006/06/01
- メディア: 新書
- 作者:ジョージ・オーウェル,高橋 和久
- 発売日: 2012/08/01
- メディア: Kindle版
原著はアルバニア語で発表され、
訳者は定評のあるフランス語訳から翻訳した。
カダレによれば、アルバニア語の原題は『<夢宮殿>の職員』の意味になる。
主人公マルク=アレムにスポットライトを当てているのが分かりやすい。
でも僕は『夢宮殿』と言い切って、
この摩訶不思議で、気味の悪い官僚組織を浮かび上がらせた
村上の日本語題名が気に入っている。
本書は作家・佐藤優さんの紹介で知った。
- 作者:イスマイル カダレ
- 発売日: 2009/10/01
- メディア: 単行本
- 作者:イスマイル カダレ
- メディア: 単行本
The Palace Of Dreams (Vintage Classics)
- 作者:Kadare, Ismail
- 発売日: 2008/12/04
- メディア: ペーパーバック