松岡正剛『千夜千冊エディション 大アジア』(角川ソフィア文庫、2020)

2000年2月、中谷宇吉郎『雪』で第一夜が始まった
前人未踏の読書人のためのウェブ「松岡正剛千夜千冊」(6/11現在1,744夜まで掲載)。
2006年10月に1,144冊を収めた全8巻(求龍堂)が刊行。
(6/30まで「生活応援フェア」で半額で購入できる。お見逃しなく)
2018年5月から角川ソフィア文庫「千夜千冊エディション」として
新シリーズ開始。
2020年6月11日現在、15冊発売されている。
(明日6/12、シリーズ第16弾『宇宙と素粒子』発売。買わなくちゃ)


三つの「千夜千冊」はすべて異なる。
同じ本を扱っていても、改稿されている。
「編集術」の達人であるセイゴオさん、
編集の妙味、醍醐味を、それぞれの「千夜千冊」で披露している。


したがって、「以前ウェブでもう読んだ」
「無料のウェブ版で読めばわざわざ書籍を購入する必要がない」という意見は
セイゴオさんの編集力の一部分しか味わっていない読者なのだ、と僕は確信する。
(まぁ、先日、全8巻を購入したばかりなので、エラそうなことを言いたい訳です:-)


前置きはともあれ、千夜千冊エディション最新刊
『大アジア』(角川ソフィア文庫、2020)を読む。
タイトルからして「大アジア」の「大」が気になる。



「追伸 大東亜の夢/アジア新幹線/一帯一路」から引用する。


  昨今の日本人にはアジア人という自覚がかなり乏しいけれど、
  かつては「興亜」とか「大東亜」という言葉が熱っぽく語られていた。
  ただしそれは日本主導のアジア主義で、
  そのため日韓併合満州国建設や日中戦争が連打され、
  昭和前期には五族協和大東亜共栄圏の旗を振ったものの、
  結局は「大東亜戦争」の敗北に堕ちていった。
  アジア主義は稔(みの)らなかったのである。
  (略)


  本書はこれまで20年にわたって書いてきた23夜ぶんの千夜千冊を、
  次の三つのブラウザーによってエデイションしてみた。
  (1) 近代日本のアジア主義と大アジア主義の思想と行動の発生現場と
   その後の軌跡を拾う。
  (2) もともと古代アジアと日本の関係には何があり、
   その後はどんな変転があったのかを追う。
  (3) 西洋型の歴史観が歪(ゆが)めてきた近代アジア史を組み替えるには
   どこを書き直せばいいのか、その試みを案内する。
  (略)


  いま「大アジア」を問うことは時代錯誤だろうか。
  そうではあるまい。
  トランプ、プーチン習近平、シン、ファーウェイ、アリババ、サムスン
  現代(ヒュンダイ)、リライアンスは「大アジア」のことばかりを考えている。
  日本にばかり、アジアが稀薄(きはく)になってしまったのだ。
            
                            松岡正剛
    
                            (pp.428-430)


大東亜共栄圏」などと聞くと
戦前の亡霊に出会ったようについ思ってしまう。
けれどよくよく振り返ってみると、
中学高校の日本史でも現代史の部分はほとんど記憶にない。
なぜ戦前が亡霊であり、
戦後は「民主主義」によって戦前を脱構築したと考えてしまうのか。
この根拠が幻のように稀薄であり、
思考するための知識が圧倒的に不足していることに今さらながら気づく。


セイゴオさんのこの一冊は、
虚心坦懐にアジアの中の日本を再考するきっかけ、動機を与えてくれる。
グローバリズムへの盲目的な信頼が、
即進歩的なことや、リベラルなことを保証し、意味する訳ではないのだ。


松岡正剛千夜千冊

松岡正剛千夜千冊