「新聞ななめ読み」を読みながら、自分でも考えてみる

クリッピングから
朝日新聞2020年6月26日朝刊
池上彰の新聞ななめ読み


月1回連載のこのコラムを読む僕の楽しみは3点に絞られます。


  (1) 池上さんが過去一ヶ月のニュースからどの問題を取り上げるか。
  (2) その問題にどの角度から斬り込み、どんな結論を得るか。
  (3) 池上さんの考えに賛成か、反対か、留保か。自分はどう考えるか。


池上さんの職業はジャーナリストです。
このトピックを避けて通ることはできなかったのだと納得しました。
6月は世論調査の不正問題でした。


  データ偏らない仕組み
  世論調査 誤解解く努力を


  「マスコミの世論調査って、どこまで信頼できるんですか?」
  私がよく聞かれる質問です。
  電話世論調査の仕組みを説明すると、
  「そこまで考えられているんですか」と感心してもらえるのですが、
  意外に多くの人が誤解しています。


  誤解内容は後で取り上げますが、
  不信感を増幅させる事実が明らかになりました。
  フジテレビと産経新聞社の合同世論調査で、
  調査委託先の業者が不正をしていたというのです。
  (略)


  <(略)世論調査は、内閣支持率や新型コロナをめぐる対策など、
  政府の対応の評価などを尋ねるもので、毎回全国の18歳以上の男女1千人が対象。
  不正は各回で100件以上、14回分で計約2500件に上るという>
                    (朝日新聞6月20日
  (略)


  現場の苦しい状況と不正の背景がわかります。
  では、朝日は大丈夫なのか。
  記事には朝日新聞社の調査方法についての説明があります。


  <朝日新聞社が実施している電話世論調査では、
  フジテレビ、産経新聞とは別の調査会社に実務を委託しています。
  ただし、調査会社任せにはせず、朝日新聞の社員が調査会場に出向いて、
  調査会社の業務を管理・監督しています。
  調査会社の社員と一緒に調査の進み具合を点検したり、
  オペレーターと対象者との電話のやりとりを確認したりするなどして、
  不適切な運用がないよう細心の注意を払っています>


  これで調査がきちんと管理されていることはわかりますが、
  読者は、そもそもの疑問を持つはずです。
  それは、「家にある固定電話にかけても出てくるのは
  高齢者か専業主婦ばかりだから、結果は偏っているんでしょう」という誤解です。
  ここは調査対象者の選び方など説明すべきでしょう。


  実は毎週金曜日に朝日の夕刊に
  「世論調査のトリセツ」というコーナーがあり、
  4月17日付でこう解説しているのです。


  <調査は固定電話と携帯電話の両方が対象です。
  固定電話の場合は出た人にすぐ意見を聞くのではなく、
  その家庭の中から対象者を1人選びます。
  そうしないと電話を最初に取りがちな主婦や高齢者の意見に結果が偏るからです。
  「有権者は3人」とわかれば、コンピューターで抽選して
  「年齢が一番下の方」などと決定。
  不在の場合でも対象者は変えず、2日間で何度か電話します>


  これだけの工夫・配慮をしているのですね。
  では、電話をかける対象者はどうやって選んでいるのか。


  <よくあるお尋ねで、
  かける電話番号はコンピューターで数字をランダムに並べて作成しています。
  これは「RDD方式」と呼ばれ、
  誰につながっているかはオペレーターも把握できない仕組みなのです>


  偏りのないデータを収集するために、これだけ努力をしているのです。
  今回のニュースに一番怒っているのは、
  きっと現場で苦労しているオペレーターの人たちでしょう。


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この記事に書かれていないのは、
では、こうした不正を再発しないためにはどうしたらいいか、
という解決方法です。
不正を主導していた再委託先の日本テレネット京都市)管理職社員は
調査に対し、


  「派遣スタッフの電話オペレーターの確保が難しかった」
  「利益向上のためだった」
  「社内のほかの人たちも手伝った」

              
と説明しています。


また松本正生・埼玉大学社会調査研究センター長は
談話でこうまとめています。


  <かつてはメディア各社は自社で対面調査をすることが多かったが、
  近年は外部委託が増えた。
  また、今回の不正の背景には、
  知らない人からかかってくる電話への抵抗感が強まっていることなどから
  電話調査の回収率が下がっていたこともあるとみる。
  「求められる数を集めるため、今まで以上に電話しなければならず、
  かさんだコスト分を埋めるために架空のデータをつくってしまったのではないか」>



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要点を整理してみます。


  ◆コスト削減のために各新聞社は外部の調査会社に電話調査を委託する。
  ◆委託先は利益を確保するために作業の一部を再委託することがある。
  ◆電話調査の回収率が下がり、回収コストが上がっている状況で
   再委託先が利益を確保するために今回のように不正も辞さないことがある。
  ◆新聞社には管理・監督責任があるが、再委託先までは目が届いていない。
  ◆かつてのように自社で対面調査をする人材とコストの確保は新聞社もできない。


新聞社も営利企業ですから、
資本主義が支配する社会で利益追求が最優先になります。
委託先、再委託先も利益確保が必要ですから
今回のような問題は構造的に起きていることになります。
企業や現場の倫理、良心に頼るだけで問題が解決するのか、疑問です。
今現在、僕にも解決方法はわかりません。


資本主義や『資本論』を解説する著書も持つ池上さんは、
解決策についてはどう考えているのでしょうか?
このコラムでは「世論調査の調査方法について誤解を解く努力を」と
その前段階のところで筆を置いています。


(本連載をまとめた一冊。新聞を読み、自分で考えるトレーニングのための優れた教材)