多和田葉子『星に仄(ほの)めかされて』(講談社、2020)

三部作の心づもりで書かれ始めた多和田葉子の長編小説。
著者によればもっと長い物語になるらしい。
第二部『星に仄(ほの)めかされて』(講談社、2020)を読む。


星に仄めかされて

星に仄めかされて

地球にちりばめられて

地球にちりばめられて


冒頭の「読書のためのガイド 第一部『地球にちりばめられて』」
これまでのストーリーを著者自身が過不足なくまとめている。
引用する。


  留学中に母国を失くしたHirukoは、
  テレビ番組に出演したことをきっかけに知り合った青年クヌートと、
  同郷人を探す旅に出る。
  最初の手がかりは、トリアーで開催予定の「ウマミ・フェスティバル」。
  そこで二人は、インド人のアカッシュと、ドイツ人のノラという友人を得る。


  ノラから、日本人を自称する青年ナヌークの話を聞いたHirukoたちは、
  彼が向かったというオスローへ。
  ナヌークから、自分は日本人を騙るエスキモーだが、
  Susanooという日本人がいて、どうやらアルルで鮨職人をしているらしいと聞く。


  情報をもとに、それぞれにアルルへと向かう一行。
  Susanooには出会えたものの、彼は言葉を発さない。
  失語症に陥っているのではと考えたクヌートは、
  それについて研究している先輩を訪ねようと提案する。

                       (p.8)


第二部はこの続きになる。
主要登場人物がひとりずつ語る章が全部で十章。
この構成は第一部から変わっていない。
物語の進行の合間合間に言葉遊び、風刺などが散りばめられていて、
文章を読む贅沢を味わえる。


多和田は2006年からベルリンを本拠地に作品を発表し続け、
日本語と同時にドイツ語でも作品を書き、文学賞を受賞している異才。
ノーベル文学賞候補のひとりとも噂される。
けれども作品には娯楽の要素がふんだんに入っていて、
親しみやすいと僕は感じる。


f:id:yukionakayama:20200704113637j:plain:w600
(地図を手書きすると地理が頭に入りやすい。案外楽しい作業になってオススメ)


「読書ガイド」の前の頁に
物語の舞台となる地図が添えられていた。
主要部分を自分でトレースしてみた。


この地図を元に登場人物の気持ちになって旅をしていると
普段と違う光景が心に浮かんでくる。
東京や日本を中心に見るのとまったく異なる世界を想像できるのだ。
(この作品では日本は既に消滅しているらしい)


多和田はその二つの世界を自在に行き来できるのだろう。
作品を読んでいると、そんな風通しのよさをときおり感じる。


百年の散歩 (新潮文庫)

百年の散歩 (新潮文庫)

僕が最初に読んだ多和田作品。文庫になっている)