先崎彰容『ナショナリズムの復権』(ちくま新書、2013)

NHK Eテレ「100分de名著」サイトを見ていたら
番組プロデューサーAの「こぼれ話」に目が止まった。
7月放送・吉本隆明『共同幻想論』の舞台裏エピソードだ。
引用する。


  (略)
  ただ、いったい誰を解説者に据えるかということについては悩みました。
  古くから吉本を読み続けている「吉本読み」のプロはあまたいます。
  しかし、彼らの著作を読むにつけ、
  あまりにも自分に寄せすぎているという感が否めません。
  あるいは、解説書のくせに妙に難解で、原典より読みにくいものも多かった。


  そんな中で出会ったのが
  先崎彰容さんの「ナショナリズム復権」という本でした。
  この本で吉本について論じられている箇所はほんの一章にすぎませんし、
  テーマも「個人幻想」についての論が中心でしたが、
  今までにない新鮮な視点に驚かされました。
  これまで積み重ねられてきた古き吉本論のしがらみから自由なところが、
  若い世代による新たな論として大きな可能性を感じたのです。


  最初の打合せから、私が「共同幻想論」にもっていた違和感や
  理解しがたさについての疑問を先崎さんが共有してくれました。
  そして、「なぜこの本が書かれたのか」を解き明かすために
  序文を徹底的に読み込むこと、
  結論部分がこの著作には書かれていないので、
  同時期の講演集などからそれに代わるものを読み出ししていくこと……
  という二つの魅力的なプランを提示してくれました。
  (略)


制作の準備段階でプロデューサーAはここまで考えていたのか。
実際に仕上がった番組が面白かっただけに、
その言葉には説得力があった。


ナショナリズムの復権 (ちくま新書)

ナショナリズムの復権 (ちくま新書)


先崎彰容(せんざき・あきなか)『ナショナリズム復権
ちくま新書、2013)を連読した。
2011年の東日本大震災で被災し、
「六畳一間の被災者借りあげ住宅から
勤務先(引用者注:東日本国際大学。当時)へかよった数ヶ月、
ほとんどとりつかれたように文字を刻んでいた」
と筆者は「終わりに」で記している(pp.225-226)。


厳選した古典を随時参照しながら
先崎は独自の角度からナショナリズムの解明に挑む。
そのうちの一冊が吉本隆明共同幻想論』だった。


(先崎が執筆した「100分de名著/共同幻想論」テキストブック)
行く先はいつも名著が教えてくれる

行く先はいつも名著が教えてくれる

  • 作者:秋満 吉彦
  • 発売日: 2019/02/07
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
(プロデューサーAの著書。名著に救われてきた自身の体験を語る。表紙写真はサルトル