依存しあうのでも突き放すのでもない、あんばい(小川さやか)

クリッピングから
朝日新聞2020年9月19日朝刊・土曜別刷り「be」
フロントランナー(Front Runner)小川さやかさん(42歳)
文化人類学者/立命館大学教授


大宅壮一ノンフィクション賞審査員を務める佐藤優さんが
称賛していたことで注目した人だった。
朝日「be」のインタビューでその人柄に触れることができた。


  人間社会の混沌 密着する新世代


  人なつこさと度胸を武器に、異境へ向かう。
  各地でたれこめる分断の暗雲にも臆さず、
  軽々と壁を乗り越えてゆく新世代の学究である。


  今年の河合隼雄学芸賞と大宅壮一ノンフィクション賞をダブル受賞した
  『チョンキンマンションのボスは知っている』は、香港が舞台。
  はるかアフリカから一攫千金を夢見てやって来たタンザニア人たちに
  2016年秋から半年以上密着し、
  「魔窟」と呼ばれる雑居ビルを拠点にうごめく
  中古品輸出ビジネスを内側から活写した。
  (略)


  専門は経済人類学・アフリカ研究。
  01年、京都大大学院から単身、タンザニア
  フィールドワーク(現地調査)に出かけ、
  都市の路上商人に声をかけられたのがすべての始まりだ。
  (略)


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    ——とにかくまねできないフィールドワークだと関係者が口をそろえます。


  現地にどっぷりつかりたいんですよね。
  事前の勉強を怠ると学問的な問いを見つけられないので準備には時間をかけますが、
  調査に入ったら勉強したことはサクッと忘れて。
  24時間つきあう中で切り口を見つけ、全面展開を目指します。


    ——24時間?


  人類学の調査は、暮らしを共にする「参与観察」が中核にあります。
  チョンキンマンションの安宿に暮らしたのも、
  深夜まで飲みにつきあうのも、調査に欠かせませんでした。
  もともと、はまると、寝てもさめても、
  そればかり考えてしまうタチなんです。


  実際、商人たちの話は3割ほどしか本当でなかったりする。
  繰り返し質問して整合性を確かめないと。
  タンザニアでの最初の調査のときは、300人近くに話を聞きました。
  いつも同じところで私が驚いてみせるので、
  同行した助手は謎だったはずです(笑)。
  (略)


    ——でも、だまされたりもしたわけでしょう。


  始めは戸惑い、落ち込みましたね。
  でも、ウソには理由もある。
  「なぜウソをつくか理由を考えるんだ」と諭され、なるほどと。


  商売はクールな見極めが肝心です。
  親友ではないけどビジネスライクでもない、仲間という関係。
  依存しあうのでも突き放すのでもない、あんばい。
  真面目すぎても、ちゃらんぽらんでもダメ。
  バランスは彼らから学んだことです。
  (略)

               (文・藤生京子 写真・長島一浩)


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行動型知性の持ち主。
度胸はあるけれど、
危険を冒すこと自体に酔っている訳ではない。
フィールドワークの現場で学んだ「バランス」感覚がとても魅力的だ。


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