仲正昌樹『悪と全体主義—ハンナ・アーレントから考える』(NHK出版新書、2018)

NHK Eテレ「100分de名著」は教養を深めるための森のような存在だ。
既に100本を超えた番組のアーカイブ周辺に関連書籍が多数出版され、
興味を持った著作とその周辺を、自分のペースで自在に散策できる。
ハンナ・アーレント全体主義の起原』の回(未見)で講師を務めた
仲正昌樹『悪と全体主義ハンナ・アーレントから考える』
NHK出版新書、2018)を読む。



巻末にこうある。


   本書は、2017年8月に小社から刊行された
  「ハンナ・アーレント 全体主義の起原 2017年9月(100分de名著)」の内容に
   加筆を施したうえで、再構成したものです。

                                  (p.222)




「はじめに」から引用する。


  自分が置かれている状況の変化をきちんと把握しつつ、
  「分かりやすい」説明や世界観を安易に求めるのではない姿勢を身につけるには、
  どうすればよいのか。
  それを考える上で、この本で取り上げる二つの著作が参考になると思います。


  『全体主義の起原』は、
  全体主義を生み出した様々な歴史的要因のそれぞれについて、
  疑問を残さないよう、哲学、文学、歴史学社会学政治学の深い教養を駆使して
  細部に至るまで徹底的に分析しようとする姿勢を貫いているので、
  読み応えはありますが、その分、議論の展開についていくのが結構大変です。
  「分かりにくい」名著ではありますが、
  適宜、現在の政治や社会に照らしながら読み進めていくことにしましょう。


  一方『エルサレムアイヒマン』は、
  全体主義体制下で生きた、ごく「普通の人間」であるアイヒマンが実行した
  「悪」についての考察です。
  アーレントは、法=命令に従うことを自らの義務と信じ、
  自らの判断を交えることなく、淡々と仕事をこなしていった
  アイヒマンの振る舞いや世界観を観察することで、
  「悪」の本質について従来の常識を覆す驚くべき見解を呈示します。


  アーレントのこの二つの著作を併せて読むことで、
  人類の歴史の始まりから問われ続けてきた「悪」という問題と、
  二十世紀に発生した比較的新しい現象である「全体主義」の関係について
  じっくり考えてみたいと思います。

                             (pp.11-12)


全222頁。
本文各章に懇切丁寧な脚注を付け、
アーレントの著作周辺の事項、人物を解説。
難解と言われる著書を読み解く手助けをしている。


仲正昌樹は現在、金沢大学法学類教授。
他の著書も読んでみたくなった。