アーロン収容所

会田雄次「アーロン収容所」(中公新書)を読む。
高校の教科書で抜粋を読んだ記憶がある。
通読したのは初めてだ。
阿川弘之が「月刊文藝春秋
2008年3月号所載「葭の随から」で
あらためて紹介している(「英国の光と影」)。

以前は気づかなかったが、副題が気になる。
「西欧ヒューマニズムの限界」とある。
会田の所属した部隊がビルマ終戦を迎え捕虜となる。
収容所での生活、そこから生まれた考察を記した本である。
イギリス人の現実的で狡猾な統治の実態が
こと細かに書かれている。
日本人の弱点や恥も同様に書いてあるから
一方的な視点とは言えまい。
会田は捕虜生活の間、
自分がひ弱なインテリであることを恥じていた。
泥棒名人や大工の達人や舞台俳優が
捕虜生活では幅を効かせていたのだ。
けれど、この著書が書かれなければ
こうした事実があったことは
歴史の濁流に消えていたに違いない。
会田の記憶、視点、考察、筆力、
そしてなによりこの著書を世間に問うた勇気が
「アーロン収容所」を現代に浮かび上がらせた。
まえがきにはこうある。
「やっぱり、とうとう書いてしまったのか。
 まえがきを書こうとすると、
 どうしてもこのような感慨が
 まず最初に浮かんでくる。」
1962年初版、2005年に87版を刷った
ロングセラーである。
(文中敬称略)