鉄橋のある風景が好きだった(馬場あき子)

クリッピングから
朝日新聞2026年3月7日朝刊別刷りbe
<歴史のダイヤグラム> (原武史)
馬場あき子が見た川の光景



  小田急線に乗る際、西武線にはない川の光景を眺めるのが、
  馬場のひそかな楽しみになったようだ。

  「鉄橋のある風景が好きだった。
  そこを走る電車が見たくて、親戚の家に行くのが楽しみだった。
  夕ぐれなど、明るい灯をともして、
  大きな川に高く架された鉄橋を過ぎてゆく電車には、
  未知の国へ向かって走って行くような夢を感じた」
  (「電車」)

  電車から川の光景を眺めるようになったのは、
  この原体験があったからだろう。
  (略)

  「夕焼けをまだ残す西の山なみのシルエットが美しいころ、
  晩春の灯をともした電車で多摩川の鉄橋を越える気分は悪くない。
  時々、土堤(どて)に立って
  電車を見送ってくれる子供づれのお年寄りもある。
  はたして私が子供の日に憧れたように
  鉄橋を行く電車は新鮮に映っているだろうか。
  もうどこへも行くことのないお年寄りと、
  行ってみたいところばかりをもつ子供とが並んで見ている電車、
  一瞬の光景ながらこれも心にしみるものだ」
  (同)

  この一瞬の光景を見逃さない馬場のまなざしに
  温かいものを感じる。
  富士山や丹沢の夕景をバックに
  多摩川の鉄橋を渡る小田急の電車の姿が浮かんでくる。

                     (政治学者)








四股と太極拳の共通点

クリッピングから
朝日新聞2026年2月28日朝刊
力士の軸 育む四股


  「四股(しこ)」は相撲の基本だと言われる。
  そこから生み出される強さとは何なのか。
  単純に見えて細かい動作に、相撲の妙が詰まっていた。

                 (高億翔、伊藤秀樹)



  (元横綱・貴乃花光司さんは)引退した今も
  四股を踏み続けているという。
  「四股ってちゃんとやるときついんだよね」。
  「骨の周りに張っている筋膜のようなものを強化するためだった」
  と教えてくれた。
  (略)


  実演をお願いすると、
  貴乃花さんは足を肩幅より広く開いて立った。
  「四股は畳1畳の大きさしか要らない」。
  記者もまねてそのまま腰を下ろすと、
  顔を下に向けたくなってくる。
  その方が楽に感じるからだ。


  横綱時代、貴乃花さんは土俵入りの際に披露する四股で、
  頭と目線をまっすぐ前に向けていた。
  四股は不思議と、顔を下に向けるとバランスが取りやすくなる。
  逆に顔を前に向けて背筋を伸ばすと、
  同じ四股でも難易度が上がる。
  「取組でも、下を向いていたら負けちゃうじゃない」


  背筋を伸ばして前を見ると、体の軸はぶれやすくなる。
  腰を落とし、そのぶれを抑えるように踏むと、
  たった数回で汗がじわじわと出てくる。
  「理想は頭がぶれずに足だけ上げる。
  それには、よっぽど(足腰が)強くないと」
  と理想の四股について語った。
  

  「丹田に力を入れるんだけど、要はケツの穴ね」
  と言って笑う。
  「一般の人も、まねしてやったらいい。
  それだけで健康になれる」と話した。
  (略)



  高い足の位置に注目が集まるが、
  本人(引用者注:琴栄峰)が大事にしているのは軸足側。
  「指で地面をかむ感覚が一番大事」と話す。
  そうすることによって
  「土俵の俵に足が残る」という感覚があるそうだ。
  (略)
  「足の指まで意識することで大きな相手にも勝てる」
  と信じて四股を踏み、自身初の勝ち越しを狙う。
  (略)



丹田に力を入れる(=お尻の穴を閉める)、
足の指に意識を向けるなど
太極拳で教わることと共通点があるのが面白い。
テレビで横綱の土俵入りを見ながら
四股の筋トレをしている女性がいたことを思い出した。


yukionakayama.hatenablog.com

いよいよ次は「とくりゅう」が出るぞ!

クリッピングから
朝日新聞2026年2月28日朝刊別刷りbe
読者投稿欄 <いわせてもらお>


  ◉許されないミス

  ミラノ・コルティナ五輪、
  フィギュアスケートペアをテレビで見ていると、
  夫が「いよいよ次は『とくりゅうが』が出るぞ!」と、
  とんでもない言い間違え。
  「『りくりゅう』だよ!」と家族で大笑いした。

  (さいたま市・「匿名・流動型犯罪グループ」と混同しないで・63歳)


僕もよく間違えそうになります……


『いっきに学び直す世界史』第2巻 西洋史/近世・近代(東洋経済新報社、2025)

『いっきに学び直す世界史』第2巻 西洋史/近世・近代
【現代世界の源流がわかる知識編】(東洋経済新報社、2025)を読む。



巻頭「本書を強く推薦する」(佐藤優)から引用する。


  だから、本書は足かけ10年の準備を経て世に出されたことになる。
  これだけ時間がかかった理由のひとつは、
  原著がまさに要点だけを記したいわばレジュメのようなもので、
  執筆陣に依頼してストーリーとして読めるように
  書き直す必要があったことである。
  (略)


  そして第2の理由として、
  原著が出てから半世紀の間の歴史学の成果を
  盛り込む必要があったことがあげられる。
  1970年代は、本書のように
  世界史を通史として記述することが一般的だった。
  さらに、マルクス主義の唯物史観の影響が強く、
  歴史は「原始共同体ー奴隷制社会ー封建制社会ー資本主義社会」と、
  生産力の増大によって段階的に発展していく
という見方が主流だった。
  

  しかし、1989年11月のベルリンの壁崩壊、
  翌月のマルタ会談における米ソ首脳の東西冷戦終結宣言、
  1991年12月のソ連崩壊が、歴史記述にも大きな影響を与えた。
  マルクス主義を国是とした東欧諸国の社会主義からの離脱、
  ソ連の崩壊によって、唯物史観は知的世界における影響力を失った。


  このマルクス主義の知的権威の失墜と絡み合う現象であるが、
  1980年代に入ってからは、ポストモダン(脱近代主義)思想が流行した。
  歴史においても、「大きな物語」よりも
  「小さな差異」を重視すべき
であるという考え方が、
  無視できない影響を持つようになった。


  大学で歴史を専攻する学生の間でも、
  「既存の知」のあり方を批判する「カルチュラル・スタディーズ」
  (民衆的な文化を権力や伝統など社会制度との関係において
  とらえようとする文化研究)や
  「ポスト・コロニアリズム」
  (植民地支配がのこしたものを批判的にみる理論・研究)が
  人気を博するようになった。


  その結果、通史は権力者の側からの歴史の見方であると
  批判的に見られるようになった。
  1990年代半ば以降に出された世界史の講座本を見ると、
  通史の要素が薄れ、
  各時代におけるジェンダーや被差別民の問題、
  欧米以外の人々の文化に関する論考が多々含まれるようになっている。


  しかし、このような通史軽視の傾向は、
  外交官や商社員、ジャーナリストなど、
  国際社会で仕事をする人々にとって極めて不便
なのだ。
  実際に世界の政治(軍事を含む)や経済を運営するパワー・エリートは、
  権力者の視座に立って歴史を見ている
からだ。


  そこで、本書においては、両者のバランスをとるように配慮した。
  すなわち、通史を重視し、権力者側からの歴史観を示した上で、
  そのような歴史観では抜け落ちてしまう
  民衆の動静についてもていねいに記述する
ようにした。
  

  そのような方針で執筆された本書は、
  ビジネスパーソンにとって役に立つ
  たとえば、海外を相手にする仕事で突然、
  自分がまったく知らない地域を担当することがある。
  そういうときに本書を一度読んでいると、
  「たしか、あのあたりに書いてあったな」という記憶が甦ってくる

  (略)


  だからこそ、学ぶにあたっては、
  個別の語句の意味を断片的に覚えるのではなく、
  それらが歴史の流れの中でどのような意味を持つのか、
  通史を丁寧に追うことによって理解を深めていく学び方
をしてほしい。
  (略)

                    *ゴシック表記は原文のまま


    原著者:大久間慶四郎
    企画・監修・解説者:佐藤優
    編集者:山岸良二
    執筆者:平山顕/馬場晴美
    対話構成:小泉明奈
    装丁:井上新八
    編集協力:鈴木充/BE-million
    編集アシスト:豊田一穂/馬場晴美
    編集担当:中里有吾



上を向いて、ハンナ、元気を出して……

クリッピングから
朝日新聞2026年2月28日朝刊別刷りbe
山田洋次 <夢をつくる> 50
チャップリンの言葉 今こそ



  「私は皇帝なんかにはなりたくない。
  …誰かを支配したり征服したりもしたくない。
  できれば、ユダヤ人にしろキリスト教徒にしろ、
  黒人にしろ白人にしろ、みんなを助けたいと思っている。
  

  私たちはみんな、お互いを助けたいと望んでいる。
  …他人の不幸によってではなく、
  お互いの幸福で支えあって生きていきたい」


  映画ファンならこれが
  チャップリンの言葉だということがおわかりだと思います。


  「人は自由に美しく生きていけるはずだ。
  なのに、私たちは道に迷ってしまったのか。
  貪欲(どんよく)が人の魂を毒し、
  憎しみで世界にバリケードを築き、
  軍隊の歩調で私たちを悲しみと殺戮(さつりく)へと追いたてた。


  スピードは速くなったが、人は孤独になり、
  富を生み出すはずの機械なのに、
  私たちは貧困の中に取り残された。
  

  知識は増えても人は懐疑的になり、
  巧妙な知恵は人を非情で冷酷にした。
  …私たちには、抜け目のない利口さよりも
  優しや思いやりが必要なのに。


  …飛行機とラジオは私たちを結び付けた。
  …今も、私の声は何百万という人々に届いている。
  何百万もの絶望する男や女、そして小さな子供たち、
  人々を拷問し罪なき者を投獄する組織の犠牲者たち、
  そんな人々に言おう、絶望してはならない、と。


  …憎しみは消え去り、独裁者たちは死に絶え、
  彼らが民衆から奪い取った権力は、
  再び民衆のもとに戻るだろう」


  ラストシーンでは恋人のハンナが
  彼の声を聞いています。


  「ハンナ、空を見あげて。
  …ぼくたちは新しい世界へ近づいている。
  …元気を出して、ハンナ。
  …輝かしい未来は、君やぼく、
  そしてぼくたちみんなのものだ。
  上を向いて、ハンナ、元気を出して……」


   (せりふの訳は大野裕之「チャップリンとヒトラー」参照 
   聞き手・林るみ)




金継ぎの器のような友情を得た(松本尚樹)

クリッピングから
讀賣新聞2026年3月2日朝刊
読売歌壇(俵万智選)
今週の好きな歌3首、抜き書きします。


  心から謝罪をしたら金継ぎの
  器のような友情を得た

     富士見市 松本尚樹


    【評】ひびの入った人間関係も、
      誠意で新しい美しさを獲得できる。
      割れたり欠けたりしたところを、
      隠さず金で装飾する金継ぎの比喩が、ぴったりだ。


  日本語のあとを英語で追いかける
  レッスンみたいな車内放送

        生駒市 高橋裕樹


    【評】同じ内容なので、あたかもそれが、
      日本語から英語への翻訳のように聞こえる。
      なるほど、次からは「レッスン」と思って聞こう。


  思ってもないのに言ってしまったり
  思ってるのに言えなかったり

         上尾市 関根裕治


    【評】心と言葉は、必ずしも一致しない。
      それどころが、逆になってしまったりする。
      リアルなもどかしさが、シンプルな表現で伝わってくる。


今週のもう1首。


  竜(じゃ)踊りの六尺棒の舞のごと
  庭に広ごる早梅ありぬ

           柏市 塩田淳文




www.youtube.com

(長崎の竜踊り)

「短歌桜」に初参加する

秋山ともすさん、ながい(めも)さんが始めた「短歌桜」。
2026年で6年目だからコロナ禍の時にスタートしている。
3月1日、31文字で詠む短歌にちなんだ短歌の日。
参加する人たちは、この日いっせいにXに自分の歌を投稿する。


〆切日までに秋山さんに歌を送ると
桜にちなんだ5種類のデザインからその歌をレイアウトしてもらえる。
(秋山さんの本職は広告会社のデザイナー/コピーライター)
ご縁があって今年大王グループは初参加させてもらった。
2024年10月に俵万智さんが「NHK短歌」で選んでくださった歌でエントリーした。



3月1日、「#短歌桜」でXを検索すると、
自分のタイムラインが桜色に変わる。
他の方の作品を読んで「いいね」ボタンを押す。
自分の歌にも「いいね」をくださる方がいてうれしくなる。
今年は過去最多266人の方が参加した。


世の中には粋な企画を実行する方がいて、なんだかホッとする。
秋山さんはこの日が自分の誕生日でもあるそうで、
短歌の神さまに愛されている方と思う。


(秋山さんの二冊の歌集を神保町PASSAGE <大王グループ> の棚に入れました。
 10冊置いたら、あれよあれよと9冊売れてしまった!)