トーストにかじりつくごと口の前に(村田一広)

クリッピングから
讀賣新聞2024年5月14日朝刊
読売歌壇(俵万智選)
今週の好きな歌3首、抜き書きします。


  トーストにかじりつくごと
  口の前にスマホ掲げて喋りだす人

        甲府市 村田一広


    【評】スマホの下のほうにマイクが付いているので、
      より鮮明に声を届けるためには、
      勢いこのようなスタイルになる。
      よく見かける光景だが、上の句の比喩が秀逸だ。


  洗われた犬の動きで雨粒を
  振り払いたい放置自転車

       高島市 宮園佳代美


    【評】ぶるぶるっと身ぶるいして落としたいほどには、
      濡(ぬ)れそぼっているのだろう。
      もともと自転車にはできぬことだが、
      拭いてくれる人とていない「放置」ゆえの切なさが漂う。


  制服の変化しかない一日目
  桜にもまだ蕾が残る

     高崎市 杉橋慶風


    【評】新入生とはいえ、
      なにもかもが一斉に新しくなるわけではない。
      一斉に満開になるとは限らない
      桜との重ね合わせが効いている。


今週のもう1首。


  テレビよりラジオの方を選んでる
  聞きたいけれど見たくない夜

        守口市 小杉なんぎん