死は生に光を当てる

伊坂幸太郎の4冊目「死神の精度」。
刊行順で8作目。
2003年から2005年にかけて
死神・千葉の視点で描いた6つの短編である。
第57回日本推理作家協会賞短編部門受賞。
 「死んでも死にきれない」死神の私からすれば、
  死んだら死ぬに決まっているので、
  その表現は可笑しかった。」(p.233)

死神の精度 (文春文庫)

死神の精度 (文春文庫)

外国人が異国を旅して
思いがけないものを発見することがあるように、
こどもの質問がときに本質を突き
おとなたちを絶句させることがあるように、
死神・千葉は自分の疑問や考えを口にする。
 「非日常な視点からものを見ることによって、
  普通のものを見慣れない、
  奇妙なものにしてしまうという手法」
をロシア・フォルマリストは「異化」効果と呼ぶ、
沼野充義が文庫の解説で紹介している(p.341)。
道ばたの石ころが単なる石ころに見えなくなる視点、意識
と言い換えてもいいだろう。
僕は伊坂の会話のセンスが気に入っていて、
村上春樹と比べるとユーモアの含有率がやや高く、
禁欲度がかなり低いあたりが好みである。
今回のミュンヘン出張のお供は
常連「ゴルゴ13」と「死神の精度」。
それぞれの物語に頻繁に登場する死が、
不思議に肩の凝りをほぐしてくれた。
死は生に光を当てる。