川島雄三『幕末太陽傳』(1957)


川島雄三監督、フランキー堺主演『幕末太陽傳』を観る。
小林信彦「定本 日本の喜劇人」で日本映画の傑作として
繰り返し繰り返し取り上げている作品なので
いつか観たいと思っていた。
秘湯会副会長に小林信彦の本を貸したのをきっかけに
副会長が持っていたDVDを貸してくれたのだ。


幕末太陽傳 [DVD]

幕末太陽傳 [DVD]


品川の遊郭「相模屋」を舞台に、
落語の「居残り佐平次」はじめ
5本の落語名作を下敷きにした脚本。
今村昌平が助監督として川島組に参加している。
確かに小林が指摘するようにフランキー堺、一世一代の演技であった。


配役がいい。脚本がいい。演出がいい。
そして、見終わった後の後味がいい。
この作品が1957年度のキネ旬4位だったと言うのだから、
いったいこの年のベスト3はなんだったのかと
あらためて日本映画黄金時代の作品群の分厚さを思った。



  (ハチの飛ぶ姿をカメラにおさめることができました。
   画面左の真ん中あたりを見てください。
   名前は知らないけれど、とても色の美しいハチです。)


  (muさんの指摘がありました。
   ハチではなく、オオスカシバという名の蛾のようです。
   8月27日記)


同時代のテレビ番組、ラジオ番組、舞台、広告などは
時間の経過とともにそのほとんどが散逸してしまう運命だ。
役者がそのときどんなに輝きを放っていても
後から再現したり追体験することは難しい。


いまでこそYouTubeなどで
思いがけないアーカイブを観ることもできるが、
そもそもアーカイブがどこかにあったり
誰かが偶然収録していなければ、それも叶わない。



その点、映画は幸福な一面を持っている。
この一作を観るだけで、
このときのフランキー堺がどれほど輝いていたか、
動き、セリフ、雰囲気、オーラがフィルムに定着していて、
こうして半世紀後に取り出して味わうことができる。


  (文中敬称略)


定本 日本の喜劇人

定本 日本の喜劇人


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ちなみに1957年度のベストテンは
以下の通りであった。
宮崎市映画サークル「シネマ1987」のサイト資料を
 参考にさせていただきました。)


キネマ旬報』1957年度日本映画ベストテン


1.今井正『米』
2.今井正『純愛物語』
3.木下恵介『喜びも悲しみも幾年月』
4.川島雄三幕末太陽傳
4.黒澤明蜘蛛巣城
6.渋谷実『気違い部落』
7.内田吐夢『どたんば』
8.関川秀雄『爆音と大地』
9.家城巳代治『異母兄弟』
10. 黒澤明どん底