牧野洋『官報複合体』(2012)


牧野洋『官報複合体ー権力と一体化する新聞の大罪』を読む。
6月から参加している社外プロジェクト課題図書の一冊だが
そんな義務感を忘れるくらい興味を持って読んだ。


官報複合体 権力と一体化する新聞の大罪

官報複合体 権力と一体化する新聞の大罪


牧野は元日本経済新聞記者。
ジャーナリスト養成の名門、
ニューヨーク「Jスクール」卒業生である。
日本独自の記者クラブによる取材のリスクを指摘し、
「官報複合体」と名付けたのは上杉隆か。


メディア関連書籍は世に多いが、
アメリカのジャーナリズムとの対比で
ここまで克明に日本の新聞メディアの問題点を指摘した著作は少ない。
ピュリッツァー賞と新聞協会賞の受賞作を比較してみる。
問題は山積しているとは言えアメリカ社会の背骨を形成する
ジャーナリズムの存在に日本に暮らす僕は溜息をつくばかりだ。



いっそ日本の新聞業界が崩壊寸前の危機に見舞われ、
人材が一気に流動化しない限り状況は変わらないのかと
不埒な考えも浮かぶ。
しかし、一方で、牧野のようなジャーナリストが
日経で育ち、Jスクールで学び、
率直な物言いの著作を大手・講談社から出版できるくらいの
道出版の自由は日本にもある訳だ。
であるなら、いたずらに溜息吐息をつくだけでなく、
世界や人間を眺める視線の精度を上げる個人の努力執念は怠るまい。



牧野の、20代から継続する問題意識を
ぎっしり詰め込んだ中身の濃い一冊。
今後もこの密度を拡散しない執筆姿勢を望む。


(文中敬称略)