岡田英弘著作集第1巻『歴史とは何か』(2013)


岡田英弘著作集第1巻『歴史とは何か』を読む。
2013年6月発刊。年4回刊行で二年かけて全8巻を世に送る。
待ちに待った著作集である。
1月に83歳になった岡田の存命中に
この企画が実現したことを読者のひとりとして悦ぶ。
岡田を支える四人の編集チーム
(能澤壽彦、嶋津弘章、宮脇淳子、山粼優子)が進めている。



   新書版とは文章が重ならないように、
   単行本未収録の原稿、すでに入手困難になった書籍に収録されたもの、
   討論会における発言記録、等々を中心に構成した(後略)


   (「はじめに」p.2より引用)


岡田の書いた文庫、新書を愛読してきた読者にも
重複が最小限で済むよう十分配慮して編集している。
新井俊三が主宰していた役員朝食勉強会の内容をまとめた
「エグゼクティブ・アカデミー・シリーズ」の原稿が面白い。
この勉強会に自分も出席して岡田の講義を聴き、
自分で疑問、意見を醸成していく雰囲気が味わえる。


紙つぶて―自作自注最終版

紙つぶて―自作自注最終版


世に慧眼の士はいるもので、
谷沢永一が『紙つぶて 自作自注最終版』(2005)に書いている。


   要するに前払いしても欲しいと、
   読者がしがみつくほどの興味ある本を出せばよいのである。
   たとえば、『岡田英弘著作集』などは
   ちょうど今が旬ではないかと思う。


   (p.237より引用)


文脈を紹介しておくと、
売れ行きは多く見込めなくとも、趣味が深く品のよい読者を想定し、
適度の前金を取る出版方法を谷沢は提案している。
かつて円本の予約を募ったとき、
最終巻に当てる為と称して、まず一人一円を納めてもらった。
それが良心的出版社の豊かな資金になった。



上記引用は、1971年7月10日執筆「奇妙な予約出版」に
谷沢が付けた自作自注の一部である。
「紙つぶて」自作自注は1985年頃から2004年頃まで書き続けた。
谷沢が「ちょうど今が旬」と書いたときから
少なくとも10年、ひょっとしたら30年が経過した。
読者からの前金による支援に頼らず
藤原書店が自力で企画を実現した。
藤原良雄社長の英断に、
一読者として身銭を切って拍手を送る。


同著作集は現在第2巻『世界史とは何か』、
第3巻『日本とは何か』まで刊行されている。


(文中敬称略)