池内紀『ことばの哲学—関口存男のこと』(2010)


大学教養課程のときに参考書を購入し、
独特の文章にいたく感激しながらも、
始めの方で挫折したことを思い出した。
いまその本は手元には残っていない。
関口存男(つぎお)のドイツ語学習参考書だ。
池内紀『ことばの哲学—関口存男のこと』(2010)を読む。


ことばの哲学 関口存男のこと

ことばの哲学 関口存男のこと


関口は語学の天才と呼ばれることを嫌い、
生涯文例を集め、「意味形態」に挑んだ。
池内はヴィトゲンシュタイン論理哲学論考』と
関口の業績を本文12章で比較対照する。
その視点と考察は独自のものだ。
ほぼ同時代に生き、言語の不可思議の解析に生涯を捧げ、
神に召された二人の仕事を現代に蘇らせた。


関口存男の生涯と業績 POD版

関口存男の生涯と業績 POD版

斎藤秀三郎伝―その生涯と業績 (1960年)

斎藤秀三郎伝―その生涯と業績 (1960年)


関口の仕事を英語における齋藤秀三郎の仕事と比べる
中村捷(『実用英文典』訳述)、アマゾンレビュアーhiro2356の文章を読んだ。
人類はこうしたThink Differentする人間が
限界点を押し広げることで知的進歩を遂げると僕は考える。
天才と安易に呼んで知らん顔するのでなく、
そうした先達が存在することを有難く、誇りに思う方がずっといい。


実用英文典

実用英文典


伝統的アカデミアに属する教授、長老たちが、
関口のような突破者を理解できないのも無理はない。
素人が口を出して申し訳ないが、
しょせん頭の出来も情熱量も
「凡人」の先生方とは比較にならないのだ。
努力と政治では人はモーツァルトにはなれない。


感情に流されるのことのない筆調で
関口の仕事の本質に迫った池内は、
凡庸なアカデミアに対して知的に異議申し立てをした。
本書が長く次の世代に読み継がれることを望む。


初出「現代思想」(青土社、2004)。
タイトル「ことばの哲学者」。


論理哲学論考 (岩波文庫)

論理哲学論考 (岩波文庫)

論理哲学論考

論理哲学論考


(文中敬称略)