春一番

午後に突然の突風。砂塵が舞う。
塀の上に置いた植木鉢が二つ、
風に飛ばされ壊れる。
近所の井戸水銭湯E湯の玄関、ベランダに
砂が吹き込み、おばさんがはいてもはいても
なかなかきれいにならない。
ベランダで一服するのを楽しみにしている常連は
湯上がりの足の裏が汚れるのをいやがり
出ようかやめとくか、ためらっている。
銭湯の若い兄ちゃんは
砂で真っ黒になった靴下を脱ぎ捨て
洗い場に向かう。
「黄砂かしらね」とおばさんが言う。
その夜、気象庁は関東地方に
春一番が吹いたと宣言した。
風が吹くと確かに寒いけれど、
寒さの中にもう確実に春が見え隠れしている。