売り切れたダイヤモンドの謎




救急車や消防自動車のサイレンの音が聞こえると
なにはさておいても家の外に出て
どこでなにが起きているかを確かめるのが僕の母である。
僕はその血を少なくとも半分引いている。



会社からの帰り道、キオスクをのぞくと
「今週号の週刊ダイヤモンドは売り切れました」
と手書きのポスターが貼ってある。
さぁ、気になる。
「おばさん、どうして売り切れたの?」
「さぁ、なんかいいことが書いてあったんと違いますか」
いいことってなんだろう。
「向こうの売店にはまだ残ってますよ」
すかさずもう一軒のキオスクに走る。
「おばさん、週刊ダイヤモンド、まだある?」
「ああ、あるよ」
「なんで、今週はこんなに売れてんの?」
「さぁ、ねぇ」



表紙にこうある。
「食品・外食大激変!
 60兆円産業に再編・買収の嵐が吹き荒れる」。
なんだ、また大不況ものか?


パラパラめくっていくとデータがなかなかおもしろい。
ビールの生産は07年には98年の半分強まで落ちている。
10年もたたずに市場が半分になったわけだ。
代わって登場した発泡酒
02年をピークに07年の生産はその6割にとどまる。
これじゃ酒類を販売する会社はたまらない。



その一方で回転ずしは
01年から09年(予測)で6割も伸びている。
サラリーマンの昼食代は01年の700円から
08年には580円まで下がっている。
なるほど、新橋ランチ戦争がますます過激になるはずだ。
データを眺めていると
食にまつわる世相の変化が見えてくる。



しかし、それにしても
なんで今週だけ週刊ダイヤモンドが売り切れたんだろう。
僕の推測だが
僕が乗り降りする駅は官庁街にほど近く
したがって農林水産省のお膝元でもある。
今週号にはデータも提供しているようだし、
おそらく関係者が買っていったのではないか。



120ページほどの雑誌が690円もするのだが、
この時代、売れるものには必ず理由がある。
どこかでサイレンの音が聞こえたら
自分で現地を見聞きし、
しかるのち自分の頭で考えてみるに限る。


不安は抽象的にやってくる。
事実は具体的にやってくる。
他人の意見に耳を傾けることは大事だが、
他人の考えに流されてはいけない。
事件も、変化も、現場で起きている。