小津安二郎『戸田家の兄妹』(1941)


小津安二郎シリーズその8『戸田家の兄妹』。
この作品は、なにより脚本がよかった。


戸田家の兄妹 [DVD] COS-017

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父の死後、長男とふたりの娘は、
母と末娘を疎ましく思い、次第に遠ざける。
一周忌に天津から帰国した次男(佐分利信)が
兄妹の不義理をいさめる。
このシーンが秀逸だった。
全員を叱り飛ばした後、
残った三人でお膳を寄せてご飯を食べるところがいい。



次男は言葉だけの人でなく、実行の人である。
母、末の妹ばかりか、お手伝いの婆やまで
天津に連れていき一緒に暮らすのだと言う。


末の妹が紹介する友人を妻に娶ることを承諾するが、
実は次男、大の照れ屋。
未来の妻に会うことが恥ずかしく、
ほうほうの体で浜辺まで逃げ出すところで唐突に映画が終わる。
このエンディングの、予想のつかないところが僕は大好きだ。



結局のところ、救いようのない悪人が出てくる訳ではない。
兄妹が少々意地悪だからだといって
僕だって、あなたにだって
そんなところの一つや二つはあるだろう。
母、末娘、次男が善人に見えるからと言って
じゃあ、彼らに欠点がないかと言えばそんなことはない。



小津映画の読後感は、
人間に対する肯定的な、
けれども甘くはない眼差しから生まれるのではないか。
その眼差しは善にも悪にも公平である。


  wikipedia:小津安二郎