<狐>の才能を見抜いた目利きふたり


<狐>の第一書評集『狐の書評』(1992) を読む。
1981年から毎週一本日刊ゲンダイに書いてきた書評から
著者が138本を自選補筆し6つの主題で配列した。
6つの主題は以下の通りである。
「物語の夜」「言葉の攻防」「遊技と映画」
「暮らしの流儀」「旅の記憶」「歴史の現場」。



いずれも800字で本好きの気持ちを
くすぐり挑発し引きずり込む。
気づくと<狐>自身の存在はどこかに消えていて、
取り上げた本の印象だけが残る。
見事な仕事だ。


<狐>はある大学図書館の司書を職業としていた。
その人物が<狐>であると見抜けた教職員、学生は
希有ではなかったか。
それくらい己の匂いを消し、
ひたすら800字に精魂を傾けた。



<狐>の才能を見抜き、
書く場所を作った日刊ゲンダイ竹村洋一。
早くから<狐>の書評に着目し連載開始から11年目に
単行本として上梓した本の雑誌社目黒孝二。
少なくとも目利きがふたりいたことで
20年後に一読者として<狐>の書評を読む幸福がある。
巻末に6ページに及ぶ
「掲載図書索引」「編著者名索引」を置いた目配り。
本作りの愛情を感じる。


(文中敬称略)