上村一夫『一葉裏日誌』(1996)


上村一夫『一葉裏日誌』を読む。
小説家として一家を成す前の樋口一葉が主人公。
シャーロック・ホームズばりの推理を働かせて、
人と人の間に起きる事件に独自の見立てをする。
探偵との違いは見つけた解答を世に出すこともなく、
心の中に沈めてしまうことだ。
小説家の本領と言えるかもしれない。


一葉裏日誌 (小学館文庫)

一葉裏日誌 (小学館文庫)


上村は画のうまさとともに
ストーリーテリングが素晴らしいことをあらためて知った。
同名作品「一葉裏日誌」とともに併載されている
「帯の男」も面白い。
花柳界に生きる主人公は芸者たちの帯を締める
数少ないプロフェッショナル。
小さな居酒屋を営む元芸者の女性との
あうんの呼吸が見ものだ。



巻末に収められた娘、上村汀のエッセイも読ませる。
仕事ばかりでほとんど会話のなかった父と、
美大受験に取り組んでいた娘がデッサンで競演する。
娘は到底及ばぬ父の技量に感服する。
生涯一度きりの、ジャズセッションのような美しいひとこまだ。


上村は1986年に45歳でこの世を去った。


(文中敬称略)