大衆食堂「遠藤」

所用があって広尾に出かけた。
用事がすむと昼飯時だったので
久しぶりにHomework'sのハンバーガーでも
食べようかなと商店街をブラブラしていると、
風でねじれたのれんが見える。
秘湯会会長としては黙って通り過ぎるのを
はばかられる風情だ。
中をのぞくと男の客でいっぱいで
ホワイトボードにはメニューがずらずらっと
書かれていた。迷わず、入る。
親父ひとりでやっている店で、
調理場につながるカウンターで
客は食べたいものを注文する。
できあがると取りに行き、
食べ終わるとトレイごと食器を
カウンターに返却する。
お茶はストーブの上にある業務用やかんから
湯のみ茶碗に注いで各自飲む。
要はセルフサービスになっていて
たったひとりですべてをまかなう親父に
余分な負担をかけぬよう客が協力する。
したがって広尾の地にあって値は安い。
一番高いトンカツ400円から
一番安い焼き海苔80円まで。
価格の中心帯は200円と250円で、
コロッケ、焼き魚、おひたし、きんぴら、
ポテトサラダ、天ぷらなどメニューは幅広い。
僕がとった200円のほうれん草のおひたしも
きんぴらごぼうもたっぷり量があり文句ない。
250円のコロッケはきざみキャベツを添えて
揚げたてを食べさせる。
80円の焼き海苔は味付け海苔ではなく、
一枚分惜しまずやってくる。
ごはんが170円、わかめのみそ汁が50円。
大満足の950円で昼食を終え、
会社のそばにもこんな店があるといいのにな
と我が昼食事情を思う。
外に出て店の名を確かめたが、名前がない。
表札を見て親父の姓が
遠藤であることだけは分かった。
想像するにこの店は親父の持ち家なんだろう。
広尾で場所を借りてこの値段じゃ
いくら人を雇わなくてもやっていけるはずがない。
町場の大衆食堂にはファーストフードの店にはない
楽しさと生活感がある。