イッセーさんのバースデイ公演


原宿クエストホールへ
今年初めてのイッセー尾形さんの公演に出かける。
今回はイッセーさんの誕生日を記念したシリーズ。
例によって演目に僕なりのタイトルをつけて記録しておく。



  (秘湯会の畑。ブロッコリーの花)



  1. 決起集会の男
  2. ピザ配達の男
  3. 海に来たオヤジ
  4. レセプションの女
  5. 全国販売店大会の女
  6. 産湯で泳いだ女
  7. 自転車盗難小学生
  8. 失禁チェロ弾きの男
  9. 哲学してますか男


7.の「自転車盗難小学生」を
イッセーさんがどうしてもきょうの演目に加えたくなって
全9作品になった。
僕も以前観て気に入っている一本。


老成した感じの小学5年生。
淡い恋心を持つ同級生の女の子が
北海道に引っ越すことを知る。
そもそも少年は自分の自転車が盗難したことを
ひとりで交番に届けにやってきていたのだ。
女の子が飼えなくなる犬の飼い主を探してもらえないか
交番のおまわりさんに依頼する少年。
あてが見つからないことを知るところで
ヴィニエットが終わる。



  (MacBookのアダプターを枕に眠るコトラン。
   彼は枕好きである)


昨日のステージにはのせず、
きょう突然、演目に加えられた。
イッセーさんの公演にはこんなことがときたまある。
自分の気持ちにどこまでも正直であること、
観客とのやりとりで日々の演目が自然に育ち変わっていくことが
その理由である。



  (会社のビルの隣りの豆腐屋さん。
   豆腐も油揚げもおいしそう。一度買って帰りたい)


僕のきょうのベストは
唄ものである9.の「哲学してますか男」。
背中に羽根をつけた男がウクレレ片手に語りと唄を披露する。
ハイデッガーサルトルとともに
男自身の哲学が並列に唄われる歌詞がなんとも言えずおかしい。


人が考えないことを考える哲学者に深みと味わいがあるのか。
哲学者もウクレレ男も
しょせん人間として紙一重であるとの暗示か。
歌詞に笑うほどにイッセーさんの芸の凄みを感じる。
そのくせイッセーさんは観客に結論や教訓めいたことを
なにひとつ押し付けようとはしない。
だから舞台はつつましく、すがすがしい。



  (黒餃子と化した黒兵衛)


年配から子どもまで観客はごちゃまぜである。
年齢別マーケティングなど、この場を説明するには無力である。
開演前には座布団にすわりちゃぶ台のまわりで
お茶を飲みお菓子をつまみながら(すべて無料)、
そこここで雑談が繰り広げられるのがイッセーさんの公演である。
アナーキーであり混沌であり、なおかつ、安らぎや温かさがある。



  (飲んだミルクを下あごにつけたベロ爺。
   赤い舌は別にちゃんと持っている)


イッセーさんは今年57歳になった。
新作を次々とつくり舞台にかけ、
はたまた小説を書き、イラストレーションを描き、
ときどきは映画、ドラマに登場する。


八面六臂の活躍だが、
テレビのバラエティやクイズ番組には登場しないので、
その活躍ぶりは一部の人をのぞいて案外知られていない。
その分、メディアの消耗品となることもなく、
芸にいっそう磨きがかけられている。
演劇界の鉄人、衣笠である。
僕にとって今年も目を離せない人なのだ。