「イッセー尾形/これからの生活 in GW」


五連休の初日、副会長と原宿クエストホールへ
イッセー尾形 これからの生活 in GW」を観に行った。
ここのところイッセーさんの舞台は全部観ている。



以下は5月2日(土)19時開演の舞台の演目である。
タイトルは例によって僕が備忘録として勝手につけたもので
正式のものではない。


  1. 大棟梁の男
  2. デジャブの女
  3. 白ネクタイの受付男
  4. 夜逃げの女
  5. 旅行宣伝の男
  6. 長崎・物語る男
  7. 内山さんの結婚を祝福する荒川さん
  8. 昭和を唄い継ぐ男


僕がこの夜よかったと思ったのは、
5.6.8.の三本だった。



「5. 旅行宣伝の男」は〆切寸前にすべてのプランを
クライアントに却下されてしまった小広告代理店社長の話。
これまでは社長のダジャレセンスで仕事をなんとかこなしてきたが、
もうそんな時代じゃない、と拒絶される。


社長は頭を抱え部下たちを叱咤激励して、
「もう、オレの時代は終わった。お前たちが知恵を絞れ」
とせきたてるが、出てくるのは珍案奇案ばかり。
そこへ、新入社員の父が怒鳴り込んできて
トラブルにトラブルが重なる。
まぁ、僕も同業だけに、身につまされますね(苦笑)。



「6. 長崎・物語る男」は不思議な話。
長崎のある小学校の前で下校するこどもたちを集めて、
お面や楽器、鳴りものを用意して物語を語る男。
要は、こどもたちの注意を引き付けておき、
続きが聞きたければ家から200円持っておいで、という商売。


物語の時代設定は長崎隠れキリシタンの頃。
踏み絵の絵札の大量発注を受け突然忙しくなった絵師の男と妹、
その隣りの家に住む同業の男、踏み絵を発注した代官が主な登場人物。
さらに、天草五郎という怪しい男が現れる。



物語が佳境に迫ったところで、
イッセーさんが突然、「話はここまで」と打ち切る。
舞台の客は虚実ないまぜになった状態で「え〜っ」と不満の声。
続きを聞かせてくれとせがむ。
こうした客席とのやりとりは計算し尽くせるものでなく、
日によって反応が変わる。
終演後、イッセーさん本人がそのことを面白がっていた。


演技としては三つ四つのお面をかぶりかえ
複数の人物を演じ分けるイッセーさんの技術が秀逸。
ときどき、この人は天才ではないかと思う。



「8. 昭和を唄い継ぐ男」。
毎回の公演で必ず一本はやってくれる唄もの。
僕はこのシリーズが楽しみだ。
今回は去ってしまった昭和という時代を惜しんで
ガード下に観客を集め、
昭和歌謡ヒットパレードをギター一本で唄う男が登場した。
演歌あり、フォークソングありなのだが、
すべて歌詞もメロディーもイッセーさんの自作。
ありそでなさそな、そのでたらめぶりが小気味いいのだ。



一人芝居は恐いものだ。
自分の調子が客席と噛み合わなかったとき、
それを挽回する手だてはほとんどない。
あるとすれば、自分自身で演技のギアを再調整し
噛み合せることを試みるくらいである。


幸い、イッセーさんの舞台は
開演前からロビーで観客たちの「一家団欒」が始まる。
ちゃぶ台が用意され、マッサージ師、セラピストが予約を受け付け、
飲み物、軽食がカウンタ−に並ぶ。
驚くべきは、これらがすべて無料であることである。
ところ狭しとイッセーさんのイラストレーションが展示され、
DVD、書籍、小物などを販売するコーナーができている。



ここには辛辣な客はいない。
一人芝居という孤高の芸に30年間挑み続けている男と
それを楽しみにやってくる400人の客との
コラボレーションが存在している。
僕はいまのところ、この希有な空間を楽しみ、
自分も客席で客のひとりを演じることに快感を覚えているのだ。


  wikipedia:イッセー尾形