もうひとつのスポーツ観戦


僕がこの世でもっとも好きなもののひとつは有給休暇で、
無給休暇は好きではない。
給料をもらう人はみんなそうだろう。


有給休暇のシルバーウィーク第一日。
秘湯会は久々に神宮に遠征した。
ヤクルトー巨人戦観戦である。



夏は既に遠い昔のようでスタンドはうすら寒く、
用意した長袖Tシャツと薄手のジャンパーだけでは足りなかった。
生ビールを一杯飲んだ後は、
麦焼酎のお湯割りに切り替えた。



僕は現在どこの球団のファンでもなく、
試合が盛り上がればいい主義である。
したがって、巨人の小笠原が抜群の選球眼で四球を選べば
「シブいな」と拍手を送るし、
ヤクルトの畠山が落ち着いたフィールディングで
三塁ゴロをさばけば素直に拍手する。


ヤクルト命の副会長にはそれが不満らしく、
ときどき隣りの席で僕の言動にイラついている風情だ。
そんな心の狭さではこれからの国際社会を生きていけないぜ。
ひとつの理念に凝り固まるのでなく、是々非々が必要なのだ。



テレビ観戦と違って僕が球場が好きな理由のひとつは、
若い男女の売り子たちがビールやら焼酎やらおつまみを売ろうと
精一杯アピールする姿が観られるからだ。


ここでは自分の才覚やら、愛嬌やら、視力やら、スピードやら、
とにかく持てる力を総動員しないと
自分の取り分が増えないことが明快だ。
彼らにとっても球場は真剣勝負の場なのである。



  (アイスクリームはめったに売れないが、
   ひょうひょうとした表情を崩さない兄ちゃん)


生ビール750円、麦焼酎お湯割りダブル1,000円。
(試しにシングルで頼んだらほぼお湯だった。
 どうりで売り子の兄ちゃんが「シングルでいいですか?」
 と僕に訊いていたわけだ)
球場での値段設定は町場の1.5倍から倍検討だが、
若者たちのもうひとつのスポーツを観せてもらう代金と
僕は割り切っている。



生ビールのタンクを背負った売り子が一番荷物が大きい。
これをかつぐと人間カタツムリみたいな格好になる。
アイスクリームを売っているイガグリ頭の眼鏡の兄ちゃんは
寒さのために相変わらず販売に苦しんでいるようだった。


そもそも売る商品は自分で選べるのか、
親方が決めるのか。たぶん後者なんだろうな。
どれくらいのパーセンテージが売り子に入るんだろう。



おうおう、よそ見をしているうちに
ラミレスがホームランを打って追加点だよ。
ところでラミレスってヤクルトの選手だったっけ、
巨人だったっけ、副会長?