堤未果「ルポ 貧困大国アメリカII」(2010)


堤未果「ルポ 貧困大国アメリカII」を読む。
アメリカを「貧困大国」と規定した、
タイトル自体がジャーナリスティックだ。
前作で取り上げた「経済的徴兵制」にも驚いたが、
本書の情報量も実に豊かだ。


ルポ 貧困大国アメリカ II (岩波新書)

ルポ 貧困大国アメリカ II (岩波新書)


教育、年金、医療、犯罪。
アメリカ社会の最前線のテーマに取り組んだ。
政府と企業が癒着した「コーポラティズム」が
この国の現在と未来を蝕んでいるという堤の指摘は
いまさらながら新鮮だ。



私たちは資本主義の欠点も学び、
利益追求や効率性の限界も知ったのではなかったのか。
いや、そうした認識は甘すぎると
堤が追いかけたアメリカ社会の現実は教える。


コスト削減のために受刑者に最低賃金で仕事を発注する企業。
収監中の諸費用を受刑者に請求し、
刑務所から出るときに借金を背負わせるシステム。
借金のある前科者など誰も雇わないから、
結局刑務所に逆戻りすることになる。
ホラー小説ではない。これがアメリカの現実だ。



見ごたえあるときのNHKスペシャルを見終えたような、
ずしりとした重量感が本書にはある。
チームで制作する番組とは違って
たったひとりでこれだけの取材をし
一冊の本に仕上げる気力、体力、知力。
新鋭ジャーナリスト・堤未果の仕事に注目していきたい。


(文中敬称略)


  wikipedia:堤未果


ルポ 貧困大国アメリカ (岩波新書)

ルポ 貧困大国アメリカ (岩波新書)