未来と過去へのラスト・メッセージ


今週は後半に一日祝日をはさむのでちょっとうれしい。
建国記念の日」である。
お茶を飲みながら買い置きしてある本を読む。
筑紫哲也の「若き友人たちへー筑紫哲也ラスト・メッセージ」(2009)
がよかった。


若き友人たちへ ―筑紫哲也ラスト・メッセージ (集英社新書)

若き友人たちへ ―筑紫哲也ラスト・メッセージ (集英社新書)


2003年から2008年に亡くなるまでの5年間、
早稲田大学立命館大学の大学院で講義した内容が主となっている。
ニュースキャスターの仕事やがん治療の忙しさの中で
よくぞこれだけの講義を続けてきたと感心した。
人はこの世を去る前に、
次の世代になにか大切なものを残そうとする本能があるのだろうか。


メディアの権力〈1〉 (朝日文庫)

メディアの権力〈1〉 (朝日文庫)


筑紫は1983年にもデイヴィッド・ハルバースタムの大部の著書
「メディアの権力 勃興と富と苦悶と」(日本語訳全三冊)を
数人の仲間たちと翻訳して世に問うている。
筑紫が朝日新聞ワシントン駐在特派員として務めていたときに
感銘を受けた一冊である。
翻訳のための時間を創り出すのは当時も容易ではなかったに違いない。


ジャーナリストとしてのそうした姿勢や時間の使い方を
筑紫自身は「お節介」であり「心配性」であると言う。
自分を含めた古い世代に点数が辛く、
その分、若い世代に期待を込めて応援したくなる性分なのだ。



若き友人たちに向けたこの本は平易な言葉で書かれている。
教育。平和。メディア。沖縄。憲法。日本人。
平易だからといって、
どのテーマも決して簡単に解答が見つかるものではない。
筑紫は自分の頭で粘り強く考えることの大切さを
若き友人たちに何度も伝えようとしている。


次女が発見した筑紫16歳のときの文章「思い出す事など」が
あとがきの代わりとしてこの本に収められている。
ジャーナリスト筑紫哲也の原点が
戦後まもないこの時点で確かにあったことが分かる。
ケンカに弱い、いじめられっ子だった
疎開先でのエピソードを中心に書いている。



この本は若き友人たちのための未来に向けた
最期のメッセージであると同時に
60代後半から70代まで年輪を重ねてきた筑紫が
16歳の筑紫にあてた過去へのラスト・メッセージでもあるのだ。


  wikipedia: 筑紫哲也


(文中敬称略)