村上春樹『アンダーグラウンド』(1997)


村上春樹アンダーグラウンド』(1997)を読む。
1995年3月20日に起きたオウム地下鉄サリン事件被害者60人近くに
インタビューしたノンフィクションだ。
村上はなぜこの労作に取り組む決意をしたのだろう。
巻末「目じるしのない悪夢ー
私たちはどこに向かおうとしているのだろう?」にこうある。


アンダーグラウンド (講談社文庫)

アンダーグラウンド (講談社文庫)


   事件後しばらくのあいだ、
   各種マスコミには地下鉄サリン事件関係、
   オウム真理教関係のニュースが氾濫していた。
   テレビは朝から晩まで、
   その情報をほとんどノンストップで流し続けていた。
   新聞、各種雑誌、週刊誌は
   膨大な量のページを事件のために割いていた。
   でも私の知りたいことは、そこには見あたらなかった。
   1995年3月20日の朝に、
   東京の地下でほんとうに何が起こったのか?
   (p.735)



そうして村上は1997年一年かけて
60数人のインタビューに取り組み本書をまとめる。
オウム的なるものは決して加害者である麻原彰晃はじめ
オウム真理教メンバーの側だけにあるのでない。
私たち、および私たちの社会の側にあるオウム的なるものから
目をそらしてはいけないと村上は主張する。



マスコミにもオウム的なるものを日々の報道で感じる。
大量の情報が氾濫するにも関わらず、
そこでほんとうに何が起こったのか、
私たちはほとんど知ることがない。
1995年3月20日朝、東京の地下で起きたことを
私たちがほんとうに知ることがないのと同じように。



私たちの心の、私たちの社会の「アンダーグラウンド」から
目をそらさぬことは痛みを伴う行為だ。
しかし、オウム的なるものを暴走させないためには
私たちが「アンダーグラウンド」の存在を自覚しないで済ます訳には
どうもいかないようなのだ。