この事件が起きたときからどうも腑に落ちないと思っていた。
被告に動機が見つからなかったからだ。
「文藝春秋」10月号「独占手記 厚生労働省女性キャリア幽囚163日
私は泣かない、屈さないー村木厚子/取材・構成=江川紹子」を読む。
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村木さんにかけられた容疑は、虚偽有印公文書作成・同行使。
障害保険福祉部企画課長だった2004年6月、
自称障害者団体「凜(りん)の会」の倉沢邦夫・元会長に依頼され、
障害者団体としての実体がないことを知りながら、
部下の上村(かみむら)勉・元同課社会参加推進室社会参加係長
に指示し、偽の障害者団体証明書を作成させた、というもの。
(p.95)
物語をあらかじめつくっておいて
被疑者の自白を引き出そうとする検察のやり方は
過去にこれまで何度も社会問題になっていた通りである。
ただこの事件の場合はあまりにも杜撰な取り調べであったため
あちこちで検察の論理がほころび、9月10日、大阪地裁で無罪判決が出た。
長年まじめに仕事をしてきた市井の人間が、
国家権力を持つ人間の思い込みのシナリオによって
ある日突然、自由を束縛される。
そして、過酷な取り調べが日々続く。
普通の人間の神経はそうした非日常にそうそう耐えられる訳もない。
いつの間にか事実が創作され、
その作文に署名をしてしまう自分がいることになる。
しかし、村木さんは最後まで屈することがなかった。
僕は疑問に思う。
この事件は村木さんを有罪にすることが検察のゴールだったのだろうか。
それとも、その先に真の標的があったのか。
これほどの体験をした後も
村木さんは検察を責めるでもなく
とても公平な、かつ品位のある発言をしている。
なかなか真似のできないことである。
失われた時間を回復するためにも
村木さんが望み通りもとの仕事に戻れることを
同じく市井に生きる者として祈る。
(文中一部敬称略)