楠木健『ストーリーとしての競争戦略』(2010)


楠木健『ストーリーとしての競争戦略
ー優れた戦略の条件』(2010)を読む。
楠木理論のユニークさは、
ストーリーテリングで動的に戦略を捉える点にある。
従来の戦略はともすれば箇条書きの静的なものであった。
まるでサッカーにおいてパスを組み立てながら敵陣を突破し
ゴールを決めるような動的イメージが戦略に吹き込まれる。



500頁に及ぶ本書は文字通りストーリーテリングの見本だから
順番に、しかも中途を飛ばさずに読むことを楠木は読者に求める。
だから、本書を要約するのが趣旨ではないのだが、
ここがもっとも肝心だなと僕が思ったところを一箇所だけ引用する。
「第7章 戦略ストーリーの「骨法10カ条」」のうち
骨法その七「賢者の盲点」を衝く、である。


   その業界を知悉している(つもりの)「賢い人」が聞けば、
  「何をバカなことを……」と思う。
   しかしストーリー全体の文脈に置いてみれば、
   一貫性と独自の競争優位の源泉となっている。
   部分の非合理を全体での合理性に転化する。
   これがストーリーの戦略論の醍醐味です。
   ストーリーづくりで一番面白く、しかし難しいのは、
   そうした「キラーパス」を組み込むというところにあります。


                   (本書p.469より引用)



1995年にアマゾンを創業したジェフ・べゾスが、
2003年に黒字転換するまで
なぜ8年もの間、赤字を耐え抜くことができたか。
普通の人間なら神経がおかしくなっても不思議ではないと僕は思う。
ジェフ・べゾスの頭の中には
「賢い人たちが、何をバカなことを……」と思う
キラーパス」があったのだ。
賢者は「バカなこと」を模倣しようとはしない。
戦略をストーリーテリングの視点で読み解けば、
企業や組織が次の一手をどう打ってくるか、
そうした予測も可能になるし、より精度が上がるだろう。


wikipedia:en:amazon.com


楠木は一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授。
本書は『一橋ビジネスレビュー』に二年近く連載した論文に
加筆、再構成した。


(文中敬称略)