山村修『もっと、狐の書評』(2008)


こんな書評を読みたかった。
山村修『もっと、狐の書評』を読む。


もっと、狐の書評 (ちくま文庫)

もっと、狐の書評 (ちくま文庫)


山村は<狐>の筆名で『日刊ゲンダイ』に
毎週水曜、22年半に渡って800字の書評を書き続けた。
書き出しがいい。
展開、飛躍があり、最後の一行にストンと着地する。
その本を手に取ってみたいと思わせる、
肯定的な読後感が気持ちいい。
それこそが書評の役割であり、
書評家の名前など不要であると<狐>は語る。



匿名の蓑に隠れて自分の言いたいことだけ一方的に言い放ち、
聞く耳を持とうとしない書評家、評論家とは断固一線を画する。
<狐>の800字を読んでいて
コピーライター坂本進の名作「ピックアップ西武」を思い出した。
モノとヒトが交わる暮らしというものを
簡潔で無駄のない文章で表現したシリーズであった。
コピーライターはそもそも匿名の書き手であり、
ブランドや企業の声であり人格そのものである。




<狐>が紹介する本からも、
<狐>の文章そのものからも
言葉の力がいまも確かに存在することを僕は教わった。
<狐>名義での書評集は4冊出版されている。
僕は幸いにもすべて入手することができた。
一冊ずつ一編ずつ愉しみながらゆっくり読んでいるところだ。