堤未果『(株)貧困大国アメリカ』(2013)


堤未果『(株)貧困大国アメリカ』(2013) を読む。
「貧困大国アメリカ」シリーズ三部作の完結編と銘打たれている。
グローバル企業、政府、政治家は利益追求のためには
ここまで国民、市民に酷な仕打ちができるものか
と読み進むうちに何度もつらくなる。



最近作でもデータ、インタビューを駆使しながら
一国家以上の権力を持つ「コーポラティズム(政治と企業の癒着主義)」
の実態を解き明かす。
法治国家である前提にはあえて逆らわず、
州議会議員を使って自分たちに有利な法律を通させる仕組みが狡猾だ。
違法行為でなくなれば裁判でも論争でも俄然有利に事を運べる。



疑問であるのはグローバル企業に勤める社員が
すべてコーポラティズムの病に冒されているのかどうかという点だ。
全員が悪意のかたまりであると言うより、
仕組み自体がダークフォースにコントロールされているのが
現実ではないか(それはそれでかえって怖ろしいことだが)。
ミクロ視点でこの問題を眺めると、
実態とはやや遊離している点があるように感じる。



あとがきに「今シリーズでは割愛せざるを得ませんでしたが、
三部作を通し、国内外の大量の資料・文献を
参考にさせていただきました」(p.278) とある。
参考文献・サイトなどを巻末に掲載してくれれば、
自分で突っ込んで調べることもできるし、
筆者との意見の相違点を検証するのに役立つ。


労作であるだけに、
結論を性急に伝えているととらえられると損をすると思う。
岩波書店ウェブサイトにそうしたデータを
補遺として掲載してもらえると読者サービスとして有難い。
検討していただけないか。



僕の住む町で一番書棚が充実しているS堂書店で
新書ランキング2位になっていた。
広く読まれて、身近でも議論が起きるとよい。


(文中敬称略)